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2020/03/07

Play ”MONK"(2)

The Thelonious Monk
Orchestra at Town Hall
1959 Riverside
モンク作品をラージ・アンサンブルで演奏する、というコンセプトは魅力的だと思うが、それを最初に手掛けたのはモンク自身だった。1959年のRiverside時代に、当時ジュリアード音楽院の教授で大のモンク・ファンだったホール・オヴァートン Hall Overton (1920-72) との共同編曲で、モンクはビッグバンドのコンサート・ライヴ『The Thelonious Monk Orchestra At Town Hall』を録音し、さらに1963年にはコロムビアでもう一作同じくオヴァートンとライヴ・コンサート・アルバムを残している(Big Band and Quartet in Concert』)。いずれもテンテット(10人編成)で、モンクの過去のコンボ演奏のサウンドを、より大きな編成のバンドによる演奏で拡張するというコンセプトであり、自分の過去のレコード演奏をオヴァートンと綿密に分析しながら、最終アレンジメントを仕上げていったとされている。いわばある種の "Monk Plays Monk" である。モンクはその後のヨーロッパ・ツアー時にも同様の編成でコンサートを行なっているので、このアイデアとフォーマットにはモンク自身がずっと興味を持ち続けていたようだ。(詳細は本ブログ 2017年10月の「モンクを聴く#9: Big Band」をご参照)

モンクはソロが良いと昔から言われてきたのは、まず曲が難しいこともあるが、モンクの意図と彼がイメージしているサウンドを理解し、実際に演奏でそれを表現できる奏者が限られていたからだ。そのスモール・コンボではなかなか完全には表現し難い、複雑なリズムとハーモニー、内声部の動きを持つモンク作品のサウンドを、 ”ラージ・アンサンブル” によって表現するのは、アレンジャーにとってさらにハードルが高いはずだが、確かに非常に興味深いチャレンジではあるだろう。モンク本人でさえそう感じていたからこそ、何度も挑戦したわけだが、モンクが直接関与した編曲に基づく演奏すら当初酷評されたように、成功させるのは簡単ではない。そもそもモンクの音楽自体が当たり前の語法に則っていないし(それが魅力なわけでもあり)、小編成コンボでもサウンド的に満足していたわけではない曲を大編成バンドで拡張して表現するのは、前にもどこかで書いたが、大キャンバスにほぼ即興で抽象画を描くようなものなので、成功させるには並大抵ではない編曲能力とセンス、演奏能力が要求されるからだ。しかし難しいが、仮に成功したら、他の音楽や演奏では決して味わえない素晴らしく魅力的なジャズになる可能性もある。

以下に挙げるのは、これまでに私が探して聴いた「ラージ・アンサンブルによる全曲モンク作品」というレコードだが、もちろんド素人の私に演奏の優劣を判断する能力はないので、あくまで参考として個人的な印象を書いただけである。演奏の評価はプロの音楽家や、聴き手それぞれの視点や嗜好で判断すべきことだが、いずれにしろこの聴き比べは、モンク好きなら楽しめる作業であることは確かだ(ただ、モンク好きでビッグバンドも好き、あるいはビッグバンド好きでモンクも好き、という人がいるのかどうかはよく分からないが…)。それに、レコード(CDでもデータでも)の場合、大型スピーカーで大音量で鳴らせれば別だが、中型以下のスピーカーで聴くビッグバンドは正直言って魅力が半減する。どうしても、迫力に欠け、低域に比べて高音部がやかましく聞こえるからだ。ライヴで聴く優秀な大編成バンドのジャズ・サウンドは、一度聴くと病みつきになるくらい素晴らしいのだが……。

90年代ではまず、ドラマーで息子のT.S.モンク(1949-) がドン・シックラー Don Sickler(1944-)の編曲で、上記モンク録音を参考にしながら、父の生誕80周年に共同で発表した、10-12人編成のオールスターバンドによる父親へのトリビュート・アルバムMonk on Monk』(1997 N2K)がある。豪華オールスターに気を使いすぎたのか、どの曲も整然とアレンジされすぎていて、モンク的破綻(?)や意外性がなく、どこか物足りないという感は否めないが、古臭くはなく、かと言って新しさを狙った風でもなく、非常にオーソドックスなアレンジの演奏だ。しかし、なにしろヴァン・ゲルダ―による現代的なクリーンで厚みのある録音で、きっちりとアレンジされたモンクの名曲を、モンクをよく知る一流プレイヤーたちが次から次へと演奏するサウンドを聴いていると、これはこれで単純に気分が良く、私的にはとても楽めるレコードだ。(収録曲、メンバー詳細等は、2017年11月の本ブログ 「モンクを聴く#15:Tribute to Monk」 をご参照)

The Bill Holman Band
Brilliant Corners
The Music of Thelonious Monk
1997 JVC
同じ時期(1997年)に発表されたもう1枚が、JVCがプロデュースしたビル・ホルマンBill Holman(1927-)のバンドによる『Brilliant Corners:The Music of Thelonious Monk』だ。ホルマンは、スタン・ケントン直系の西海岸の伝統的アレンジャーで、能力とセンスは折り紙付きなのだろうが、モンクの音楽との相性がどうかと思っていた(60年代末に、モンク/オリヴァー・ネルソンというCBSでの残念な組み合わせの前例があるので)。結果は予想通りというべきか、確かに流麗、ゴージャス、モダンな演奏は素晴らしいのだが、洗練されすぎているためか、ごく普通のビッグバンドのサウンドのように聞こえ、モンクを全面に出してタイトルを謳うほどの個性的なモンク解釈が感じられないような気がする。だが、たぶんこれは好みの問題なのだろう。
* 収録曲は以下の10曲。
 Straight, No Chaser /Bemsha Swing /Thelonious /'Round Midnight /Bye-Ya /Misterioso /Friday the 13th /Rhythm-A-Ning /Ruby, My Dear /Brilliant Corners

Standard Time Vol.4
Marsalis Plays Monk

 1999 Sony
まったく知らなかったのだが、意外なことに、ウィントン・マルサリス Wynton Marsalis(1961-) がモンク作品をノネット編成で演奏した『Standard Time Vol.4: Marsalis Plays Monk』というレコードをリリースしている(1999 Sony ただし録音は93/94)。超有名曲をあえてはずした選曲になっているところが、ウィントンらしいと言えようか。予想されたことだが、印象としてはまさしくマルサリス的モンクで、まったく別の音楽(クラシック?)のように聞こえるところもある。何というか、熱さとか、ユーモアとか、ウィットとか、温かみとか、基本的にモンクの音楽の属性というべき要素がことごとく除去されて、全体が蒸留されたような、アクのないサウンドだ。ニューオリンズのように聞こえる部分もあって面白い工夫も見られるのだが、基本的には滑らかで上品、低刺激なモンクなので、大きく好みが分かれるだろう。とはいえ、これらの演奏から、マルサリス的解釈による作曲家モンクへの敬意というものが、素人の耳にもどことなく伝わって来ることも確かだ。
* 収録曲は以下の14曲。
Thelonious /Evidence /We See /Monk's Mood /Worry Later/Four in One /Reflections /In Walked Monk (Marsalis) /Hackensack /Let's Cool One /Brilliant Corners /Brake's Sake /Ugly Beauty /Green Chimneys

考えてみると、上記3枚のCDはいずれも1990年代の演奏と録音であり、アレンジャーも参加プレイヤーたちも、モンクと同時代を生きていたメンバーがほとんどだ。だから1950/60年代のモンクの天才と斬新さを記憶し、みんなが身体でそれを覚えているがゆえに、基本的にモンクのイメージをなぞるような正統的リスペクトになるのかもしれない。そう思って聴けば、これらはいずれも良くできた楽しめるレコードだろう。

それから20年近くを経て、ピアニストのジョン・ビーズリーJohn Beasley (1960-) がMONK’stra Vol.1』&『Vol.22016&2017 Mack Avenue)という2枚のアルバムを発表している(Vol.1 /9曲、Vol.2 /10曲)。モンクを大編成バンドで演奏すべく2013年に結成された「モンケストラ」は、基本15/16人編成のラージ・アンサンブルで、こちらはアレンジャーも若く、生きた時代も違うので、好き勝手とまでは言わないが、かしこまらないで、現代のリズムやグルーヴを大胆に取り入れたかなり遊びの精神が入った多彩なアレンジになっている。そもそもモンク自身がある意味ルール破りの達人だったわけで、こうした型破りな挑戦は、現在のアーティストがモンクをリスペクトする一つの方法でもあるだろう。しかし私的には、2作品ともに全体としてあれこれ奇を衒いすぎた感が強く(いじりすぎでうるさい)、あまり「ジャズ」的なグルーヴを感じさせないのが残念だ。それとビル・ホルマンもモンケストラもそうだが、いずれも西海岸のビッグバンドだ。これはあくまで個人的感覚にすぎないが、そのせいかサウンドがどことなく(オリヴァー・ネルソン盤ほどではないにしても)、モンクにしてはやや明るく、きらびやかすぎるように聞こえる。個人的には、モンクの音楽はやはり、ニューヨークの景色に似合った、しぶく艶消しのサウンドがよく似合うように思う。

The Monk; Live at Bimhuis
狭間美帆
2018 Universal
The Monk: Live at Bimhuis』(Universal) は、狭間美帆がオランダの ”メトロポール・オーケストラ” を指揮して、モンク作品全7曲を演奏した最新CDだ2017年10月(狭間が出演した「東京ジャズ」のすぐ後)にアムステルダムの「ビムハウス」で、モンク生誕100周年記念コンサートの一環としてライヴ収録された演奏で、7曲のうち<Round Midnight>、<Ruby My Dear>など4曲は、モンクの ”ソロピアノ” 演奏を元にして編曲したものだという。作曲家モンクの頭の中で ”鳴り響いていたはずの音” を、オーケストラのサウンドで表現するという試みであり、これはモンクがホール・オヴァートンと「タウンホール」コンサート向けに行なった編曲手法と同じだ。世界で唯一と言われるジャズ・フィルハーモニック・オーケストラによる斬新な演奏は、モンク的フレーバーを感じさせながら、何よりもカラフルな「現代のジャズ」を感じさせるところが素晴らしい。上記2枚の録音のLA的輝きよりも、サウンドにヨーロッパ的陰翳と、ある種の重さが感じられるところも私的には好みだ。単なるアレンジャーではなく、作曲家という狭間のバックグラウンドが、こうした斬新なアレンジと演奏を可能にしているのだろう。狭間美帆は2017年の「東京ジャズ」で自ら指揮し、素晴らしい演奏を聞かせてくれたデンマークラジオ・ビッグバンドの首席指揮者に2019年10月から就任しており、今後も益々活躍が楽しみな作曲家・アレンジャーだ。秋吉敏子に次いで、日本のジャズ界から世界で活躍するこうした才能が現れたことを非常に嬉しく思う。今年2020年5月の「東京ジャズ(プラス)」にも3年ぶりに出演するらしいので、今から楽しみにしている。
* 収録曲は以下の7曲。
Thelonious /Ruby My Dear /Friday The 13th /Hackensack /Round Midnight /Epistrophy /Crepuscule With Nellie