このキャラも… |
テレビ離れが指摘されて久しいが、私も最近テレビは、ニュースとドキュメンタリーとサッカー以外ほとんど見ない。お笑いが仕切る内輪ネタやイジリ中心のバラエティ番組は、どれを見ても新味がないのでもう飽きた(こっちの年のせいもあるが)。ドラマも同じような題材と俳優ばかりで興味が湧かないが、今季のNHK朝ドラ「半分、青い。」はリズムとテンポが良く、今のところは面白いので別だ。「あまちゃん」以来の出来だろう。漫画的だが、脚本も演出も、主人公も俳優陣もとても良い。少し前だが「ちかえもん」や「おそろし」といった時代劇、今も続編をやっている「京都人の密かな愉しみ」のように、これぞNHKという名作もたまにあって、このあたりはさすがだ。やはり基本的に脚本と演出が良ければ、質が高くて楽しめるドラマができる。ところがそのNHKが、業績好調を背景に調子に乗っているのかどうか知らないが、民放の "まがいもの" のようなちゃらちゃらした、しかもいかにも金をかけたような毒にも薬にもならないバラエティ番組を最近やたらと増やしているように見える。若者受けや視聴率アップを狙ったお気楽なエンタメ指向を強めた上に、民放の仕事まで奪ってどうするのか。最近はNHKブランドに引かれて集まるタレントも多くなったようだが、それを利用しているようにも見える。同じ金をかけるなら、ネットでは伝えられない硬派のニュースやドキュメンタリー、あるいは民放にはマネのできない、良質な大人の番組にもっと投入してはどうか。こちらはそのために長年受信料という金を払っているのだ。NHK自身が放映している海外のドキュメンタリーなどは、派手さはなくとも深く鋭い番組がたくさんあるし、制作手法としてもまだまだ学ぶべきところがいくらでもある。そうした中にあって、金も旅費以外たいしてかかっていない低予算番組のように見え、視聴者への媚びもなく、中高年の鑑賞にも耐え、しかもリラックスして楽しめる貴重な番組が、地上波の「ブラタモリ」と、BSの火野正平の「日本縦断こころ旅」だ。
「ブラタモリ」は、タモリとアシスタントの女性アナウンサーが日本各地を訪ねて、その土地ならではの隠れた地理、地質、歴史や面白さを、実際に現地の人や専門家(これがまた個性的な人が多くて面白いが、特に素人然とした人の方が面白い)の案内で歩きながら探り、引き出すという番組だが、タモリのオタク度満点の博識ぶりと反応と解説で、地学や歴史を笑いながら学べる教養番組でもある。この番組は酒を飲みながら見ると、なぜか非常に楽しめる。こうしてNHKに出演するようになったタモリは、昔と違って今や大物感がないわけではないが、それでも知性に裏打ちされ、かつ肩の力を抜いた本来のオタク的タモリは、普通のお笑い芸人と違って受けようとか、媚びようとかする気配がまったくないので、そのカラッとしたクールさが相変わらず素晴らしい。何より、タモリ本人がいちばん面白がっている様子が伝わって来るところがいいのだ。草彅剛のナレーションも、井上陽水のテーマソングも、番組コンセプト通りに力の抜けた感じで統一されている。開始当初はNHK的でやや硬い部分もあったが、徐々に「タモリ倶楽部」の、あの ”ゆるい” 味わいをあちこち散りばめるようになって、今や番組全体のトーンも安定している。最初緊張してぎこちない新アシスタントの女性アナウンサーが、いずれも徐々に番組のペースに慣れて、タモリ氏とぴったり息が合うようになってくるところも見どころだ(今度のリンダ嬢は少しタイプが違うが)。ただ彼女たちがどういう基準で選ばれているのかはわからないが、NHK女子アナの出世コースデビューの場のようになって、背後のNHK的売り出し意図がどことなく見えるようになってきたことは、番組の素朴な面白さを損なうようで、私的には何となく抵抗を感じる(最初からそういう意図があったのかも知れないし、タモリ氏との相性や好みも当然反映されているのだろうが)。
一方火野正平の「こころ旅」は、自転車に乗った全員貧乏そうな(?)クルーが、これも日本の各県、全国津々浦々を走りながら視聴者の手紙に書かれた思い出の場所「こころの風景」を、夏冬の休憩期間を除き、雨の日も風の日も週4日間毎日訪ねるという趣向で、こちらも番組としてはスタッフの旅費以外たいして金はかかっていないだろう(夜の宴会はどうか知らないが)。名所旧跡に行ったり、上等な料理を食べて蘊蓄を語るわけでもなく、どこにでもあるような日本の町や村を、山坂超えて毎日一箇所訪れて、時にはしみじみとしながら手紙を読むだけの番組で、火野正平の昼食など毎日のようにナポリタンやオムライスだ(本人が好きなこともあるが)。貧富で言えば、タモリの番組より低予算だろうし(たぶん)、正平の体力だけが頼りの番組だが、こちらも正平氏の肩の力の抜き加減が絶妙だ。それに自転車目線の映像を見ていると、どことなく懐かしさを感じるあちこちの町や村の田舎の風景が毎回のように出て来る。正平氏も言うように、この番組がなかったら絶対に行かないような場所が毎日テレビで見られるのだ。自分が自転車に乗ってそこを走っているように思えてくるし、不思議なことに風の匂いまで感じられるような気がするときもある。この空気まで感じられるライブ感は他の番組では絶対に味わえない。生きもの、動物、草木への興味と意外な知識(妙に目が良くて、すぐに何か見つける)、特に昆虫から爬虫類、犬や猫、牛や馬、といった動物まで、生きもの(人間の子供含)たちとの垣根をまったく感じさせない火野正平のほとんど小学生並みの野生児ぶりも見もので(相手も確かにそういう無防備な反応をするのだ)、これも子供時代を思い出して懐かしく感じる理由だろう。自虐ネタ、ダジャレ、下ネタやあからさまな女好きの性向、途中で出会う相手によって微妙に距離感を変える態度や反応(やはり構える人は苦手のようで、動物と同じく無防備な人が好みのようだ)、一方で、時折見せる子供のような純真さや温かな人間味など、とにかく正平氏の体力と同時に、その唯一無二とも言うべき自由な自然体キャラの魅力で持っている番組だ。当初は独特の正平ファッション(頭部以外)にも感心せず、たまにしか見なかったのだが、のんびりした展開や彼の人間性の魅力に段々と気づき、何よりリラックスできるので今ではすっかりファンになって毎日見ている(ファッションも以前よりだいぶ垢抜けた)。歌や音楽もなかなかいいので、番組のテーマ音楽CDまで買ってしまった。
「ブラタモリ」は放送開始後10年、「こころ旅」も既に7年になるそうで、両方とも今や立派な長寿番組だ。その間タモリ氏は72歳に、正平氏は69歳になり、普通のサラリーマンならとっくに引退している年齢である。それでも体を張って頑張るその元気さと好奇心に、中高年から絶大な支持と声援を得るのは当然だろう。両方とも旅番組の一種なのだろうが、あまたのその種の番組と違って、企画力と、知恵と、何より主人公のキャラの魅力で勝負していて、無駄に金をかけた感じがせず、作り物感のないライブ・ドキュメンタリーという印象を与えるところが共通している。片や、一見勉強はできるが陰で何やら怪しいことをしていそうな学級委員長、片や勉強は嫌いだが愛すべきクラスの悪ガキという、同じ面白さでも、いわば知と情という両者のキャラの対比も良い。それとおそらく、タモリと火野正平本人が番組の企画内容そのものに深く関与しているのだろう。それがNHKらしからぬ自由と自然さを番組に与えている。タモリ氏はたぶんもう金持ちだからいいだろうが、NHKはくだらないバラエティに金を使う代わりに、時代劇やドラマの仕事が減り1年の大半をこの番組に捧げていて、しかも日本中にファンがいる火野正平のギャラを上げるか、感謝の印としてたまには御馳走を食べさせたり、酒をたっぷり飲ませてやるとか(やっているのかも知れないが)、あるいはいつも前歯で噛んでいて、ついに抜けてしまったかに見える奥歯の治療費の援助でもしてやったらどうか(奥歯は番組のための彼の体力維持に必須だ。つまり治療は必要経費だ。多少痛いがインプラントを勧める。今ならまだ間に合う)。タモリ氏と正平氏には、こうなったら頑張って死ぬまで番組を続けてもらいたいものだと思う。