![]() |
| MONK'stra Vol.1 John Beasley (2017 Mack Avenue) |
![]() |
| Reflections Steve Lacy Plays Thelonious Monk (1958 New Jazz) 第21章 p434 |
』を既に録音している。)ビバップではなく、シドニー・ベシェら、ディキシーランドやシカゴスタイルの古い音楽の影響をルーツとするレイシーが、次に向かったのがモンクに触発されていたセシル・テイラーであり、1957年夏にモンクが登場する半年以上前に、「ファイブ・スポット」にテイラー・ユニットのメンバーとして出演している。テイラーというフィルターを通してモンクを知るようにったレイシーが、他の奏者のような比較的分かりやすいモンク作品ばかり取り上げなかったのは当然だろう。同じくモンクの影響を受けていたマル・ウォルドロン(p)、セシル・テイラーと共演していたビュエル・ネイドリンガー(b)、当時新進のドラマーだったエルヴィン・ジョーンズ(ds)というカルテットがこのアルバムで取りあげたのは、タイトル曲<Reflections>の他、<Four in One>,<Hornin’ In>,<Bye-Ya>,<Let’s Call This>,<Ask Me Now>,<Skippy>という計7曲のモンク作品である。1957年のズート・シムズ(ts) による<Bye-Ya>以外は(当時は未発表だったバルネ・ウィランの<Let's Call This>もある)、それまでモンク以外誰も演奏したことがない曲ばかりだった。レイシーはモンク作品のメロディ、ハーモニー、リズムという構造を徹底的に研究することから始め、モンクが実際にはせいぜい20曲程度の常時レパートリーしかなかったのに対して、50曲以上のモンク作品をレパートリーにできるまで自身の中に吸収したと言われている。
レイシーのソプラノサックスは、モンクと同じく一度嵌ると病みつきになるほど個性的だが、そのメロディとサウンドもモンク同様に常に温かく美しい。モンクだけを演奏したレイシー初期のこのアルバムでは、まるで二人のサウンドが合体したかのように聞こえる。モンク・バラードの傑作で、レイシーがシンプルに淡々と吹くタイトル曲<Reflections>の懐かしさ漂うメロディは、シンプルゆえにいつまでも耳に残るほど印象的だ。モンクに傾倒していたレイシーが書き留めたと言われる有名な「モンク語録」も、これまでにも多くが知られ、また本書にもいくつか出て来るが、どれも実に興味深く、ジャズの神髄を捉えた言葉ばかりだ。レイシーがあるインタビューで述べた、「画家ユトリロがパリのモンマルトルを描いたように、モンクはニューヨークという街そのものを音楽で描いていたのだ」、という表現もまたモンクの音楽の本質の一部を捉えた名言だろう。そのレイシーが初めてモンク・クインテットのメンバーとして共演した、1960年6月からの16週におよぶ「ジャズ・ギャラリー」での貴重な長期ギグを、リバーサイドがまたしても録音しなかったのは返すがえすも悔やまれる。レイシーは60年代を通じて、ピアノレスというフォーマットでモンク作品の探求を続け、1963年にはラズウェル・ラッド(tb)、ヘンリー・グライムス(b)、 デニス・チャールズ(ds)というカルテットで、2作目となる全曲モンク作品のLP『School Days』(Emanem) をライヴ録音で残している(ただし発表されたのは12年後)。その後ヨーロッパ中心の活動を続けた後、1970年代にはパリに移住し、70年代半ばにはプロデューサー間章を仲立ちにして、富樫雅彦(ds)、吉沢元治(b)ら日本のミュージシャンとも共演している。その生涯を通じて、レイシーの音楽の根底にあったのは常にセロニアス・モンクだった。
![]() |
| A Portrait of Thelonious (Orig.Rec.1961/ 1965 Columbia) 第26章 p563 |
アルバム全8曲のうちモンク作品は<Off Minor>,<Ruby, My Dear>,<Thelonious>,<Monk’s Mood>という4曲で、当時の現地レギュラーメンバー、ピエール・ミシュロ(b) とケニー・クラーク(ds) がサポートしており、録音も非常にクリアだ。他のレコードを含めてパリ時代に録音されたパウエルの演奏には、もちろん往年のような凄みや切れ味はないが、モンクがそうだったように、技術の巧拙を超えた晩年の天才にしか表現できない情感があり、当時のパウエルのモンクに対する温かな心情が伝わって来るようなこのレコードが私は昔から大好きだ。特にしみじみとした<Ruby, My Dear>は、この曲のあらゆる演奏の中で最も美しい解釈だと思うし、私はパウエルのこの演奏がいちばん気に入っている。アルバム・ジャケットを飾る抽象画とデザインは、ニカ男爵夫人によるもので、本書に描かれたこの3人の当時の関係を彷彿させる点でも、このレコードからは、単にモンクの曲をパウエルが演奏したということ以上の特別な何かを感じる。本書にも書かれているように、パウエルが亡くなる1年前の1965年、レナード・フェザーとのインタビューで、このレコードの<Ruby, My Dear>の感想を訊かれたモンクが「ノーコメントだ」と答えているのも、モンクの心の中に、言葉にできない当時のパウエルへの様々な思いが去来していたからだろうと思う。
![]() |
| Monk on Monk T.S.Monk (1997 N2K Encoded Music) 終章 p660 |
曲目は以下の8曲で、ほとんどモンクの家族、親族、友人にちなんだ有名曲ばかりを選んでいる。
Little Rootie Tootie/ Crepuscule with Nellie/ Boo Boo’s Birthday/ Dear Ruby (=Ruby, My Dear)/ Two Timer (="Five Will Get You Ten" by Sonny Clark)/ Bright Mississippi/ Suddenly (=In Walked Bud)/ Ugly Beauty/ Jackie-ing
総勢20人を越える参加メンバーも豪華で、編曲したT.S.モンク(ds)、ドン・シックラー(tp)に加え、ホーンはウェイン・ショーター(sax)、グローバー・ワシントJr (ts)、ロイ・ハーグローヴ(fgh)、ウォレス・ルーニー(tp)、アルトゥール・サンドバル(tp) や、父親の旧友デヴィッド・アムラム(fh)、エディ・バート(tb)、クラーク・テリー(tp) などが参加し、各曲でそれぞれが素晴らしいソロを聞かせる。ベースはロン・カーター、デイヴ・ホランド、クリスチャン・マクブライドが、またピアノはハービー・ハンコック、デヴィッド・マシューズに加え、ジェリ・アレン、ダニーロ・ペレスというポスト・モンク世代を代表するピアニストが交代で担当している。そして2曲入ったヴォーカルは、『Underground』(1967) でジョン・ヘンドリックスが歌詞を付けて歌った<In Waked Bud>を、ダイアン・リーヴスとニーナ・フリーロンが見事なデュエットで聞かせ、モンクが詞を付けたいとずっと思っていた<Ruby, My Dear>をケヴィン・マホガニーが初めて歌詞 (by Sally Swisher) 付きの甘いバラードとして歌っている。モダン・ジャズの香りがまだ比較的残っていた90年代の感覚で、モンクの音楽をアコースティック・ビッグバンドとヴォーカルというフォーマットで多彩に解釈したこのアルバムは、オールスター・バンドにありがちな月並みな演奏ではなく、父親の音楽を内側から捉えていた息子による新鮮なアレンジメントと参加メンバーの素晴らしさで、どの曲も演奏も非常に楽しめる。父モンクの時代とは異なり、楽器の質感が伝わり、見通しも良いクリアな90年代的録音 (by ルディ・ヴァン・ゲルダー) も気持ちが良い。
![]() |
| House of Music T.S.Monk Band (1980 Atlantic) 第29章 p654, 終章 p660 |




