2021年5月『(続々) シブコのおかげでマリオにはまる』以来、3年ぶりのシブコがらみのゴルフ記事である(写真はすべてゴルフ・ダイジェスト・オンラインGDOより)。
女子メジャー・トーナメントでの日本人ワンツー・フィニッシュは、2021年全米女子OPでの笹生/畑岡で達成された――と思っていたが、当時笹生は実はフィリピン国籍だったので…という、ややこしい歴史がある。そういう意味で、今回は記録上初の「日本人」によるワンツーで、1位はまた笹生優花だったが、今回は2着がなんと渋野日向子という大穴だった。3日目を終えた時点で、大舞台に強い渋野の様子が、今年に入ってからの残念な9試合とまったく「違う」ことがわかったので、たぶん二人のどちらかが優勝する、と踏んでいた。というわけで、久々に6/3 早朝までTV中継を見てしまった。笹生は2019年全英の渋野に続き、2021年にあっさり全米女子OPというメジャータイトルを手にしているが、今回はその全米女子OPというメジャータイトルを、二人の仲良し日本人「メジャー覇者」が、1位/2位と連勝で制したことが何より嬉しく画期的だ(円ベースの1位/2位賞金総額もびっくりだが、企業収益と同じで、異常な円安のおかげでもあると思うと、複雑な心境だ)。一時期の韓国旋風さながら、決勝R、最終日の上位に残った日本人選手の数には驚かされたが、あの難コースで、4日間を (ー4)、(-1)というアンダーパーで終えたのは、この二人の日本人選手だけだ。コースセッティングのみならず、カップに一度入ったかと思えるボールが、縁でクルッと回転して出てしまう――そんなシーンを何度も目にした意地悪コースである。笹生、渋野ともに、他の上位外国人選手が次々に自滅してゆく中、じっと耐えてスコアをキープしていたのが勝因だろう。古江彩佳、竹田麗央、小岩井さくらという日本勢も10位以内に喰い込んだ。韓国勢が席巻していた時代もそうだったと思うが、やはり、海外のトーナメントに同国人がたくさん出場していることは、選手に安心感を与えるだろうし、精神的にも有利に働くだろうと思う。
胸のすくような豪快で歯切れの良いショットで2019年全英を制した後、渋野は不調だった翌2020年秋の全米女子OPの優勝争い(結果は4位)、2022年のシェブロン(4位)、全英(AIG 3位)以降は目立った活躍もなく、特に今年に入ってから予選落ちばかりで、絶不調というべき状態が続いていた。さすがに、これまでずっと応援してきた私も「もう立ち直れないかもしれないな」と思い始めていた。ネット上でも相変わらず、「フラットスウィングをやめろ」「日本に戻って鍛え直せ」「コーチをつけろ」「石川と手を切れ」「引退しろ」…とか、ど素人があれこれ言いたい放題のことを書いてきた。メジャー挑戦を掲げてスウィング改造に取り組んだ2020年も不調で、同じように罵声を浴びていたが、寒風吹きすさぶ年末の全米女子OPでの優勝争いで、有象無象を黙らせた。しかし今回は、昨年から今年5月までのあまりの不調ぶりに、いくら大舞台に強いというキャラがあるにせよ、まさかここまでやるとは誰も予測していなかっただろう。直前にクラブのシャフトを変更したからという報道もあるが、その影響の度合いはともかく、何かしら大きな変化(きっかけ)が彼女の内部で起きたことだけは確かだろう。いずれにしろ、コース上、グリーン上で、あの「しぶこスマイル」が久々に全開になって、見ている側を癒してくれたのは何よりよかった。特に3R目の14Hのカップ際の「10秒待ち」バーディは、意地悪グリーン上で、まさにゴルフの神様を引き寄せた最高に記憶に残るシーンになった(何度見ても笑える)。最終日12Hグリーン上のアクロバチックなスライスラインのバーディもそうだ。渋野はやはり「持っている人」であり、観客が思わず引き込まれてしまうような笑顔の魅力と共に、自分だけでなく、周囲を巻き込んで「みんなで盛り上がるシーン」が実によく似合う人だ。つまり生まれながらの「スター」なのである。
笹生も、2021年の全米女子OP制覇後は勝利に恵まれず、アメリカで苦労してきたようだが、彼女の女子らしからぬ颯爽とした男前のプレイが私は好きで、渋野同様に応援してきた。子供のときから鍛えて来た、あのブレない強靭な体幹と筋肉、スウィングのスピード、パワーはまさに男勝りで、飛距離、弾道ともに他の日本人女子プレイヤーとは次元の違うゴルフをする。表情豊かで、感情の起伏がよく表れる渋野とは正反対で、調子が良くても悪くても、あまり表情を変えない(ように見える)ところも、クールでいい。最終日16H のP4のワンオンが、笹生の真骨頂というべきものだろうが、彼女は実はパワーだけでなく、パッティングも、グリーン周りの小技も実に上手なことを、今回も何度か見せてくれた。特に3R目の10Hでバンカー越えの高く上げて、グリーンの狭い部分に落とした寄せ、最終日の18H のグリーン下側からの寄せは見事だった。22歳にして持つ、この硬軟、強弱取り混ぜたゴルフ技術の幅広さは、今後さらに磨きをかけたら笹生の絶対的強みになると思う。
優勝インタビューで語ったように、フィリピンと日本の国籍問題では(ゴルフだけでなく、実人生においても)きっと悩んできたのだろうが、今回日本国籍に決めたことで、精神的にもすっきりして臨んだのかもしれない。インタビューで分かるように、笹生の英語のコミュニケーション能力が高いことは、世界で闘う日本人選手として大きな強みであることは言うまでもない(英語、日本語、タガログ語の他、タイ語、韓国語も堪能だという)。しかし、笹生のパット中、観客から応援の大きな歓声と同時に、TV画面から常にブーイングの低い唸り声が聞こえてきた気がする。思わずアメリカ人の本音が出たのだろうが、あれにはがっかりした。頼みのネリー・コルダも早々に崩れて、決勝Rはアジア勢ばかり、最終日後半には、アメリカ人選手が最後はアンドレア・リーしか上位に残っていない(彼女も韓国系だ)ことにいら立っていたのだろうが、最大のメジャー大会でのこの観客マナーは、ゴルフの精神に反した残念な態度だと言わざるを得ない。大谷翔平クラスまで上り詰めない限り、アメリカの中でアジア人が闘うということは、常にこうした社会環境も相手にしてゆくということを意味している。技術だけでなく、タフな精神を必要とするのである。
渋野と笹生は以前から仲良しだが、久々のTV画面で見ていると、渋野は前のホールを行く笹生を大声で応援しながらプレイしたり、相変わらず、選手やスタッフ、観客、誰に対してもおおらかでやさしく接している。最近成績のせいもあって控え目だったコメントも(何を言っても叩く人間がいるので)、今後は明るくなって、また我々を笑わせてくれるだろう。笹生も、一見クールだが、以前から心根のやさしさが言葉や態度に現れているのを知っている。プロとしての技術だけでなく、人間性が素晴らしいところが、この二人の女子ゴルフ選手のいちばんの魅力でもあると私は思っている。サッカーの澤穂希、スケートの小平菜緒など、超一流の女子スポーツ選手にはみなこうした属性が備わっているものだ。今後も、二人がさらに活躍してゴルフ界を盛り上げ、我々を楽しませてくれることを願っている。