Thelonious Monk
Plays Duke Ellington
(1955 Riverside-stereo)
第15章 p282-
モンクの次のトリオ・アルバムは、リバーサイドに移籍後の初録音、1955年7月の『プレイズ・デューク・エリントン Plays Duke Ellington』である。プレスティッジ盤は2曲を除き、すべてモンクの自作曲だったが、当時モンクのオリジナル曲はまだ大衆向けとは言えないと考えていたプロデューサーのオリン・キープニューズは、もっとわかりやすい曲を演奏したトリオ・アルバムを作って、まずモンクを売り出そうとした。そこで最初に選んだのがデューク・エリントンの作品だった。長い付き合いのオスカー・ペティフォード(b)とケニー・クラーク(ds)というリズムセクションをモンクは選んだ。本書に書かれているように、このアルバムには「リバーサイドに言われたモンクが渋々作った」とかいう見方を含めて様々な評価があったが、大筋としては「控えめな印象」という表現が一番多かったようだ。しかし著者がネリー夫人や息子トゥートの発言として書いているように、尊敬するデューク・エリントンの作品を取り上げたこのレコードの録音に、実際モンクは並々ならぬ意義を感じていたという。ブラシ・ワーク中心のケニー・クラークのドラミングも含めて、プレスティッジ盤に比べて全体的に「モンクらしさ」が控えめで、ある種大人しく、上品な作品であることは間違いない。やはりエリントンという大先達の作品だけを取り上げるという挑戦は、モンクと言えどもかなり緊張して臨んだことは間違いないだろうし、普通のスタンダード曲に比べてエリントンの曲の完成度が高くて、モンク流の解釈と再構成も慎重にならざるを得なかったのかもしれない。本書に書かれた録音時のモンクのエピソード(譜読みにたっぷり時間をかけた)からも、そうした心理があった可能性がある。選曲はエリントンの有名なナンバーのみで、<スウィングしなけりゃ意味ないね>、<ソフィスティケイティッド・レディ>、<キャラバン>など全9曲で、<ソリチュード>のみがソロ演奏である。
The Unique
Thelonious Monk
(1956 Riverside-stereo)
第16章 p304
リバーサイドの次のトリオ・アルバムは、翌1956年3月、4月に録音した『ザ・ユニーク・セロニアス・モンク The Unique Thelonious Monk』である。オスカー・ペティフォードのベースは変わらず、既にヨーローッパに移住していたケニー・クラークに代わってアート・ブレキーをドラムスに起用している。エリントンに続き、今度は、全曲スタンダードのモンク流解釈をトリオで聞かせようというリバーサイドの戦略だ。<ティー・フォー・ツー>、<ハニー・サックル・ローズ>など、よく知られたスタンダード曲のみ7曲を演奏している。ビリー・ホリデイの愛唱歌だった<ダーン・ザット・ドリーム>は、モンクが最も好んだバラード曲の一つだ。同じくバラードの<メモリーズ・オブ・ユー>のみソロ演奏だが、本書でも書かれているように、この曲を愛奏していたモンクのストライド・ピアノの先生だったアルバータ・シモンズをおそらく偲んだもので、その後モンク愛奏曲の一つともなった。何より曲のメロディ、とりわけ古い歌曲を愛したモンクが、両バラードともに慈しむかのように繊細にメロディを弾いている様子が聞こえて来る。このレコードでは、エリントン盤とは異なり、モンク流の曲の解釈と再構成をかなり取り入れており、またアート・ブレイキーの参加がモンクを煽っていたことは間違いないだろう。結果としてこのアルバムは、プレスティッジの自作曲中心のアルバムと対を成す、ピアノ・トリオにおけるモンク流スタンダード解釈のショーケースとなっている。
Thelonious Monk
Plays Duke Ellington
(1955 Riverside-mono)
エリントン盤をはさんで、これら50年代のピアノ・トリオ3作における自作曲とスタンダードのモンク流解釈と演奏を聴き比べてみると非常に面白い。なお、リバーサイドの上記2作品のアルバム・ジャケットは、モノラルとステレオ・バージョンの2種類がある。本書に書かれているように、現在CDに主として使われている上記ジャケット写真は、いずれも売り上げ増を狙ったリバーサイドがステレオ・バージョン用に作ったものだ。ちなみに左のジャケットはモノラル盤の『Plays Duke Ellington』オリジナル・ジャケットである。まだ30歳代半ばのスリムなモンクが写っている。 モンクはこの15年後、1971年のアート・ブレイキー(ds)とアル・マッキボン(b)を起用した最後のスタジオ録音『ロンドン・コレクション London Collection Vol.2』(Black Lion)まで、トリオだけのアルバムは録音していない。