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| YouTube 動画 (shijimi) 藤圭子* 追悼:みだれ髪 |
私は単なるド素人のジャズ好きだが、この十年間はジャズ書の翻訳という仕事もあって、普段はほとんど作業BGMとしてジャズばかり聴いている(たまにあいみょん等も聴く)。このブログも、そもそもジャズを中心にした素人記事を好き勝手に書いて投稿してきたのだが、毎年、雪の便りが聞こえてくる季節になると、恒例のように、なぜかむずむずと急に演歌が聴きたくなる。そんな時、まず浮かぶのが「風雪ながれ旅」や「みだれ髪」など、船村徹 (1936-2017) の代表的名曲だ。2018年1月に、私は本ブログで「藤圭子『みだれ髪』の謎」という記事を書いている。YouTubeで見つけた動画での藤圭子の歌に感動して書いた記事である。この投稿は、200を超える8年間のジャズ中心の全ブログ記事のうち、今でも他の記事を大きく引き離す第2位のアクセス数に達している人気記事だ。今はSNS拡散の影響が強いので、ブログ記事へのアクセス層や数の実態は掴みにくいが、いずれにしても、この名曲と藤圭子の根強い人気に、あらためて感心している。
アメリカ南部発生の「ブルース」が、アメリカを代表する音楽であるジャズ、R&B、カントリー等の源流の一つであるように、歴史的に昭和の演歌・歌謡曲へと連なる日本の伝統的大衆歌は、いわば「日本のブルース」にあたるもので、各地の民謡や地唄、浪曲等の伝統を通じて古くから日本人のDNAに刻み込まれてきた音楽だ。特に昭和ひと桁から団塊にかけての世代には、幼少期にラジオやテレビを通じて無意識のうちに身体に浸み込んでいる音楽なので、私を含めて、演歌を聞くと今でもほぼ条件反射的にそのメロディに反応してしまう人が多いと思う。演歌には名曲も数多いが、中でも古賀政男と並んで船村徹は、日本的哀愁と抒情を強烈に感じさせる名曲をたくさん書いてきた作曲家だ。春日八郎の「別れの一本杉」とか「柿の木坂の家」など、流行歌として幼少期に自然に聞こえてきた曲は、今でもはっきりと記憶に残っている。特に「みだれ髪」のような歌詞(星野哲郎)、曲、双方ともに古風で格調高い名曲は、日本人の心の琴線に触れる何かがあるように思う。そしてジャンルに関わらず、昔からそうした名曲には、かならず興味深い背景や物語があるものだ。
| 船村徹 |
| YouTube 動画(man nabe) みだれ髪・17名歌手競演の歌い比べ (2021) |
美空ひばり 、田川寿美、水森かおり 、森昌子、石川さゆり、由紀さおり、藤圭子、天童よしみ、キム・ヨンジャ、 伍代夏子 、三沢あけみ 、藤あや子、船村徹、弦哲也、氷川きよし、五木ひろし、島津亜矢
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| 塩屋埼灯台 |
これまで聞いたことのない歌手もいるが、さすがにみなさん歌は上手で、また全員がそれぞれ個性的なので、聴く人の好みによるだろうと思うが、この曲は恋に破れた女性の心情を描いた歌なので、やはり女性歌手の方が似合うと思う。ただし、この曲の歌詞の意味は単純ではないので、歌唱は辛い思いと未練はもちろん、死を暗示する絶望まで滲ませて唄うべき曲だという解釈もあり得る。星野哲郎の歌詞は当初4番まであったそうで、ひばりの意見も入れて言葉を選択し、それを3番までにまとめたそうだ。だからこの曲は詞の解釈そのものがまず複雑であり、それを伝える歌唱技術、情感の表現技術も含めて、文字通りの難曲なのである。船村徹が「素人には…」と語った真意も、単に音域や唄い方の技術だけのことではなく、この歌の持つそうした深さをどう表現するかという点を指しているのではないかと思う。それをプロの歌手たちが、どうこなして歌として伝えているか、というのがこの曲の聴き比べの面白さだろう。
だが何度聴いても、結局のところ私の個人的印象はやはり7年前と変わらなかった。つまり本家の美空ひばりと、作者の船村徹を除けば、藤圭子の歌が圧倒的に素晴らしく、また心に響いてくるのである。この難曲を完全に「自分の歌」にしている、という以外に表現のしようがないが、「いかにも」な表面的な感情表現ではなく、歌詞の理解の深さと、心の底から絞り出すような寂寥感、情感の表現など、聴き手に訴えかけてくるものが違うのである。しかもその録画は、ほぼ休業状態だった90年代の藤圭子が、素人のような格好で、テレビのカラオケ番組で唄っている記録であり、決して正式な歌謡番組とか舞台上のパフォーマンスではないのだ。本当に、この藤圭子の歌には何度聴いても不思議な感動を覚えるし、私にとって依然としてそれは「謎」のままだ。7年前のブログにも書いたが、美空ひばりと藤圭子の歌は、どちらがうまいとかいうよりも、そもそも「歌の世界」が違うのだ。ただ一人、美空ひばりだけを歌手として尊敬している、と公言していた藤圭子のいわば "インフォーマル"で ソウルフルな歌唱が、「美空ひばりの名曲」の素晴らしさを、彼女の死後、奇跡的に「増幅した」とも言えるだろう。船村徹が藤圭子の唄うこの「みだれ髪」を聴いていたら、どんな感想を述べただろうか、と今でも思う(残念だが、その情報はない)。
| YouTube動画 (miyakonoameni) 都の雨に |

