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2025/11/09

船村徹「みだれ髪」他を聴き比べる

YouTube 動画 (shijimi)
藤圭子* 追悼:みだれ髪

私は単なるド素人のジャズ好きだが、この十年間はジャズ書の翻訳という仕事もあって、普段はほとんど作業BGMとしてジャズばかり聴いている(たまにあいみょん等も聴く)。このブログも、そもそもジャズを中心にした素人記事を好き勝手に書いて投稿してきたのだが、毎年、雪の便りが聞こえてくる季節になると、恒例のように、なぜかむずむずと急に演歌が聴きたくなる。そんな時、まず浮かぶのが「風雪ながれ旅」や「みだれ髪」など、船村徹 (1936-2017) の代表的名曲だ。2018年1月に、私は本ブログで「藤圭子『みだれ髪』の謎」という記事を書いている。YouTubeで見つけた動画での藤圭子の歌に感動して書いた記事である。この投稿は、200を超える8年間のジャズ中心の全ブログ記事のうち、今でも他の記事を大きく引き離す第2位のアクセス数に達している人気記事だ。今はSNS拡散の影響が強いので、ブログ記事へのアクセス層や数の実態は掴みにくいが、いずれにしても、この名曲と藤圭子の根強い人気に、あらためて感心している。

アメリカ南部発生の「ブルース」が、アメリカを代表する音楽であるジャズ、R&B、カントリー等の源流の一つであるように、歴史的に昭和の演歌・歌謡曲へと連なる日本の伝統的大衆歌は、いわば「日本のブルース」にあたるもので、各地の民謡や地唄、浪曲等の伝統を通じて古くから日本人のDNAに刻み込まれてきた音楽だ。特に昭和ひと桁から団塊にかけての世代には、幼少期にラジオやテレビを通じて無意識のうちに身体に浸み込んでいる音楽なので、私を含めて、演歌を聞くと今でもほぼ条件反射的にそのメロディに反応してしまう人が多いと思う。演歌には名曲も数多いが、中でも古賀政男と並んで船村徹は、日本的哀愁と抒情を強烈に感じさせる名曲をたくさん書いてきた作曲家だ。春日八郎の「別れの一本杉」とか「柿の木坂の家」など、流行歌として幼少期に自然に聞こえてきた曲は、今でもはっきりと記憶に残っている。特に「みだれ髪」のような歌詞(星野哲郎)、曲、双方ともに古風で格調高い名曲は、日本人の心の琴線に触れる何かがあるように思う。そしてジャンルに関わらず、昔からそうした名曲には、かならず興味深い背景や物語があるものだ。

船村徹
1980年代に肉親や親しい人たちが次々に世を去り、精神的にも、肉体的にもダメージを受け、手術と長期入院を経て、ようやく復帰した最晩年の美空ひばりだが、その「ひばり復活」のために星野哲郎と船村徹が1987年に書き下ろした曲が「みだれ髪」である。ひばりも演歌再興のために、決意を新たにしてこの曲に真摯に取り組んだという。船村と美空ひばりとの間で交わされた作曲と録音までの経緯を描いたテレビ番組と思われる動画もYouTubeで観たが、当時の超一流の作曲家と歌手という二人の音楽家の間にあった、この歌が生まれるまでの背景は非常に興味深い。船村自身が、この曲はあくまで「歌手・美空ひばり」だけを想定して作った曲であり、低域から高音域までの広い音域をはじめとして、非常に難しい曲なので「素人にはとても唄えない、玄人でも…」と明言していた。正式レコーディングの後、そのお披露目の舞台が、美空ひばりが亡くなる前年1988年の「美空ひばり不死鳥コンサート」(東京ドーム)だった。その歌の物語とひばりの歌唱に感動し、持ち歌としては短い期間しかなかったひばりの死後、この名曲が他の歌手にどう唄われていたのか、と興味本位でYouTubeで探してみた。そのときに偶然出会ったのが、1990年代のTV番組で藤圭子が「非公式に」唄っていた貴重な上記のTV録画であり、彼女の歌の素晴らしさに衝撃を受け、その感動体験をブログで取り上げたのが2018年の上記記事だ。船村徹はその1年前の2017年2月に亡くなっていた。

YouTube 動画(man nabe)
みだれ髪・17名歌手競演の歌い比べ
(2021)
そのときは、YouTubeで確か十人ほどの歌手の歌唱を自分でランダムに探して聴き比べた記憶がある。ところが、最近久々にYouTubeを覗いてみたら、「みだれ髪・17名歌手競演の歌い比べ」(2021年by man nabe)という企画の動画がアップされているのを見つけた。本ブログで連載している「ジャズ・バラードの森」という名曲・名演聴き比べの、いわば演歌版の動画である。その動画では、美空ひばりはもちろん、藤圭子や作者の船村徹を含む17名の男女歌手が、”連続して”「みだれ髪」を唄っているので、各歌手の特徴が比較しやすい。藤圭子はやはり、上記ブログで引用したテレビ出演時の動画であり(それしか記録がないので)、最後に美空ひばりが東京ドームで3番までのフルコーラスを唄うが、一番手のひばりを含めて、それ以外の16名の歌手は1番から3番までのうちの1コーラスだけだ(時どき番号が間違って表示されているが)。そういうわけで、久々に「みだれ髪」をじっくりと聴いてみた。17名の歌手は以下の通り;

美空ひばり 、田川寿美、水森かおり 、森昌子、石川さゆり、由紀さおり、藤圭子、天童よしみ、キム・ヨンジャ、 伍代夏子 、三沢あけみ 、藤あや子、船村徹、弦哲也、氷川きよし、五木ひろし、島津亜矢 

塩屋埼灯台

これまで聞いたことのない歌手もいるが、さすがにみなさん歌は上手で、また全員がそれぞれ個性的なので、聴く人の好みによるだろうと思うが、この曲は恋に破れた女性の心情を描いた歌なので、やはり女性歌手の方が似合うと思う。ただし、この曲の歌詞の意味は単純ではないので、歌唱は辛い思いと未練はもちろん、死を暗示する絶望まで滲ませて唄うべき曲だという解釈もあり得る。星野哲郎の歌詞は当初4番まであったそうで、ひばりの意見も入れて言葉を選択し、それを3番までにまとめたそうだ。だからこの曲は詞の解釈そのものがまず複雑であり、それを伝える歌唱技術、情感の表現技術も含めて、文字通りの難曲なのである。船村徹が「素人には…」と語った真意も、単に音域や唄い方の技術だけのことではなく、この歌の持つそうした深さをどう表現するかという点を指しているのではないかと思う。それをプロの歌手たちが、どうこなして歌として伝えているか、というのがこの曲の聴き比べの面白さだろう。

だが何度聴いても、結局のところ私の個人的印象はやはり7年前と変わらなかった。つまり本家の美空ひばりと、作者の船村徹を除けば、藤圭子の歌が圧倒的に素晴らしく、また心に響いてくるのである。この難曲を完全に「自分の歌」にしている、という以外に表現のしようがないが、「いかにも」な表面的な感情表現ではなく、歌詞の理解の深さと、心の底から絞り出すような寂寥感、情感の表現など、聴き手に訴えかけてくるものが違うのである。しかもその録画は、ほぼ休業状態だった90年代の藤圭子が、素人のような格好で、テレビのカラオケ番組で唄っている記録であり、決して正式な歌謡番組とか舞台上のパフォーマンスではないのだ。本当に、この藤圭子の歌には何度聴いても不思議な感動を覚えるし、私にとって依然としてそれは「謎」のままだ。7年前のブログにも書いたが、美空ひばりと藤圭子の歌は、どちらがうまいとかいうよりも、そもそも「歌の世界」が違うのだ。ただ一人、美空ひばりだけを歌手として尊敬している、と公言していた藤圭子のいわば "インフォーマル"で ソウルフルな歌唱が、「美空ひばりの名曲」の素晴らしさを、彼女の死後、奇跡的に「増幅した」とも言えるだろう。船村徹が藤圭子の唄うこの「みだれ髪」を聴いていたら、どんな感想を述べただろうか、と今でも思う(残念だが、その情報はない)。

YouTube動画 (miyakonoameni)
都の雨に
同じ星野哲郎・船村徹のコンビによる、高橋竹山を描いた「風雪ながれ旅」も好きな曲だが、北島三郎の歌があまりに突出しているので、北島と船村徹本人の歌唱(これも渋くて素晴らしい)以外はめったに聴き比べることはない。あまり有名ではないかもしれないが、船村徹にはもう1曲「都の雨に」(作詞・吉田旺)という名曲があって、私はいつも「みだれ髪」とセットのようにして聴いている。「都の雨に」は、母親を残して古里を捨て、夢を抱いて都会に向かった男の挫折と後悔、捨てた故郷を懐かしく思い出す心情を、都会に降る雨に託した船村徹らしい詩情豊かな曲である。1960年から70年代の昭和時代を、都会で生きた経験のある地方出身者なら誰しも、しみじみと胸に沁みる望郷歌である。コンクリートでできた華やかな都会に降る雨は、あるときは不思議に美しくロマンチックだが、時によっては冷たく非情に感じることがある。そうした挫折と孤独の心情が、都会の雨を通して見事に描かれている。

この曲の「ちあきなおみ」と「鳥羽一郎」の単独歌唱バージョン(いずれも2000年代初め)はYouTubeでいくらでも見つかるが、私が気に入って聴いているのは、元祖・船村徹本人の歌唱(1980年代)が加わり、「ちあきなおみ/ 船村徹/ 鳥羽一郎」という3人の歌が連続して聴ける上記動画だ。音質も良く、3人とも印象的なイントロを含めて3番までのフルコーラスを唄っていて(キーは異なる)、各人の歌唱の持つ独自の味わいを聴き比べられる。夜更けのスナックで、カウンターに座った歌の上手な3人の客が、それぞれカラオケで唄う「都の雨」を酒を飲みながら横でしみじみ聴いている、というシチュエーションを想像するといいと思う。ただし夜中に一人でじっと聴いていると、とことん落ち込む曲でもあるので、「今夜は泣きたい」と思っている人にお勧めします。個人的には、ちあきなおみの抑えた歌唱がこの曲に合っていて、やはり素晴らしいと思う。ちあきなおみもまた、その情感表現の豊かさと歌唱の技で、美空ひばりと藤圭子に拮抗する歌手だった。それにしても、船村徹は日本歌謡史に残る名曲を本当にたくさん残してくれたと思う。