振り返ってみると、ジャズに熱中していた1970年代の終わり頃、オーディオ誌で知ったスピーカーケーブルの違い(長さ、太さ、材質、構造等)による音の変化が、私の「オーディオ遍歴」の始まりだった。同じLPレコードから再生される音の「違い」があまりに面白くて、それ以降はアンプやスピーカー等の単体オーディオ機器購入の他に、スピーカーの自作、電源コンセント/タップ/ケーブル、接続ケーブル類、レコードプレーヤーの改造、ブチルゴム制振による諸々インシュレーターの自作等…と、ありとあらゆるオーディオ小細工(我が家では "Kozaiking" と呼ぶ)を趣味でやってきた(何をやったのかもう覚えていない…)。今になってみるとバカバカしいこともやったが、昔はオーディオマニアの聖地だった秋葉原へ材料を買いに出かけたりして、素人でも自分で工夫できるところと、その結果実際に音が変化する過程がとにかく面白かった。現在、音の入り口であるMac周辺でやっていることは、私にとっては昔のKozaikingと同じことなのだ。
アナログ系もジャズ中心にCDと同じ程度の枚数のLPがあるので(CDと同じタイトルが多い)、ターンテーブルや足元、カートリッジ(シェル、リード線)とアーム周辺を改造したレコードプレーヤーKENWOOD KP9010 (30年ほど前の製品)が今も現役で稼働している。アナログはメカさえ壊れなければ、こうして長い間楽しめるところも良い。それとこの機種はオート・アームリフターがあって、居眠りしていても(しょっちゅうある)片面再生が終わるとアームが自動的に上がるので、針もレコードも痛めないところが老年モノグサ者的には高ポイントだ。カートリッジ、フォノイコ、昇圧トランスなどで長年遊んでいたが、私の「腕」では、現状どうやってもMacシステム側の方が音の良いケースが多く、何よりも、とにかく便利なので最近はほとんどMac側で聴いている。LPやCD時代、苦労してカセットテープやCDRに録音編集していた自分だけの「コンピレーション」(好きな演奏・曲集)も、iTunesでは「プレイリスト」として、いとも簡単に作れるなど、昔を思えばまるで夢のような使い勝手だ。
定年退職を機に、これで「あがり」として揃えたのがMacを入り口にした以下のシステムで、これらを人生最後のオーディオと決めている(向こうが壊れるのが先か、こっちが死ぬのが先か…)。DAC以降をこのラインアップに決めてからかれこれ7,8年になり、その間何もいじっていない。昔のオーディオ感覚だと中級クラス(?)のシステムということになるのだろうが、我ながら「分相応の」システムに落ち着いたような気がする。
- DDC--(spdif)--DAC/PS Audio Nuwave--(XRL/belden88760)--PreAmp/PRIMARE PRE30--(XRL/belden88760)--PowerAmp/PRIMARE A33.2--(SPcable/cardas-crosslink)--Speaker/TAD PRO TSM-2201+PT-R4
- (xxxx) は接続ケーブル。接続ケーブルはあれこれ混在させると訳がわからなくなる。昔はその変化も楽しんでいたが、きりがなく、今はもう面倒くさいので、常用ケーブル類はシンプルなワンブランドに決め、Mac周辺USBケーブルはunibrainに、バランスケーブルはbelden88760というプロケーブル推薦品に統一した。いずれも余計な響きのない信頼できるケーブルだ。
15年ほど前にCDPからPC再生へ移行した後、単体DACも何台か換えたが、当時はまだ輸入品中心のデジタルくさく硬い音が多かった。大型の電源トランスを積んだPS Audio/Nuwave DACの、アナログライクで柔らかでいながら力強い音が気に入って、以来ずっと使っている。アンプも国産、輸入品など思い出せないくらいいろいろ換えたが、PRIMAREは特にPRE30の北欧らしいシンプルなデザインが気に入って、パワーアンプのA33.2と共に購入した。オーディオ機器はデザインも非常に重要だと思うが、このコンビはデザイン同様に音も端正でまったく不満がない。それとPRE30は、大昔の音質優先アンプと違って入力や音量をリモコンで変えられるので、椅子に座って聴きながら、iPhone/iTunes Remoteを併用して、曲も音量も瞬時に切り変えられるところも快適だ(生来が横着者なので、便利さには勝てない)。元々、豊潤なゆったりとした音よりも、端正で、かつ力(芯)のある音、スピード感のある音(硬い音ではない)が好みなので今のこの組み合わせには満足している。
「オーディオとはスピーカー、それも大型スピーカーを鳴らすことだ」と長年にわたって思い込んできた(B&W、JBL、Monitor Audio…と何台大型スピーカーを換えたことか…)。それに、エレクトロニクスの進化に依存し、変化の激しい入力側や最近のアンプ類と違って、スピーカーは発音の原理も素材も、昔から基本的にはほとんど変わっていない唯一の機器なので、古いから音質的に劣る、あるいはハイレゾは再生できないとかいうことはもちろんない(SACDもハイレゾも、いわば究極のアナログサウンドをデジタルで再現する技術だと思うので)。最終的にスピーカーから出て来る音の質や個性こそが、やはりオーディオの楽しみの原点であり醍醐味だと思う。ただし今は常識だが、大型はもちろんのこと、たとえ小型でも、スピーカーとはパワーをぶち込んで音量を上げないと本来の「実力」を発揮しないものだと経験上も知った。中途半端な音量では本来の音質や能力は分からないのだ。
そして「スピーカー(SP)を鳴らす」とは結局のところ「部屋を鳴らす」ことと同義で、部屋の空間ボリューム、音響特性などの要素が音の聞こえ方のほとんどを決める(大きなSPを気持ち良く鳴らすには、当然だが大きな容量の部屋が必要だ)。SPの音を聴いていると思っているが、実は部屋固有の周波数特性等のクセも込みの音を聴いているのである。普通はSPの置き方や部屋の工夫等でサウンド(響き)を調整するわけだが、古来オーディオの達人とは、これを自分の聴覚で精密に聞き取り、機器選択やセッティングを最適な状態(もちろん自分好みの)に調整できる人たちのことだ(私の駄耳では到底無理だ…)。私の場合、せいぜいテスト音源を使って、左右SPのチャンネルバランスと、正相・逆相による音のフォーカスチェックを定期的にやっているくらいだ。逆相によるチェックとSPセッティング<位置、角度等>は、素人にもできる有効な方法だと思う。
しかし存分にスピーカーの音量を上げられるオーディオ誌とかショップの視聴室や、一部のジャズ喫茶は、やはり異次元の世界だ。大らかだった昔とちがって、隣近所に異常に気をつかう現代日本の都市部の普通の住宅では、それは不可能なことであり、実現するには大金持ちになって専用のオーディオ・ルームでも作るか、あるいはキツネやタヌキしかいないような田舎のポツンと一軒家にでも住むしかないだろう(だがそこで、電気増幅した大きな音をわざわざ聴きたいか、という疑問はある…)。結局、現代の都会や市中で暮らして理想的な部屋を持てないなら、部屋にオーディオ側を合わせるしかないと考えるに至って、モノとしての存在感が大きく、場所をとる大型SPではなく、リビングなど「普通の部屋」で、大音量でなくとも、ある程度近接して楽しめそうなニアフィールド系の機器と聴き方にやっと開眼したのが10年近く前だ。元祖は江川三郎氏なのだろうが、これはいわば盆栽オーディオとも言え、迫力には欠けるが繊細で精密なサウンドを楽しむ、年齢相応の枯れた聴き方とも言えるだろう。ただし私の場合、机の上に置くような小さなシステム(ミニ盆栽)ではない。もちろんヘッドフォンも一つの選択肢だが、携帯音楽は別として、やはり家の中で座って耳を塞いで音楽を聴きたくはないので…。
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TAD PRO TSM-2201 +PT-R4 |
そうこうして辿り着いたのが、TAD PRO TSM-2201というユニークな形状の小型モニターSPで、しかもTADにしてはずいぶんと安価なスピーカーだったが、あまり売れなかったらしい。日本のオーディオ好きは嗜好が保守的なので、たぶんデザインが理由なのだろう(私は好きだが)。ユニットも含めて決して安っぽくはなく、角にはR処理を施しているし、しかも小さく軽く扱いやすい(歳をとると、何事も軽くて扱いやすいモノが良い。確かに音は良いが、少し動かすのもひと苦労の重い大型SPにはもう懲りた)。密閉型なので音にクセがなく、入力に対して非常にリニアに反応し、音のバランスが良くて、パワーを入れても音の造形が崩れない優秀なスピーカーだと思う。足元を固めてやると、中低音にスピード感のある非常に気持ちの良い鳴り方をする。だがモニター系なので、正確だが余計な響きがないリアルな音質で(あっさりして愛想のない音とも言える)、そこが好みの分かれるところだろう。しかも密閉型20cmウーファーなので、低音域が薄過ぎると感じる人もいるだろうし、大編成オケとかの再生はやはり得意とは言えないだろうが、小編成のジャズのように個々の楽器の音をクリアに再生したいという聴き方には合っているし、特にヴォーカルの自然な表現は気に入っている。
低域改善のためにサブウーファーも試してみたが、バランス的に好みではないので、今はAudirvanaのグライコで多少低域を持ち上げて補っている。今回長さが気になっていたスピーカーケーブル(cardas-crosslink 4芯)を久々にカットしていくらか短縮してみたら、やはり多少低域のバランスが変わった(これは、あまりハマるとキリがないので、ほどほどにしておく)。上に乗せているリボンツイーターPT-R4は飾りみたいなものだが、TADと同じパイオニア製なのでデザイン的にも違和感がなく一体化しているし(と自分では思う…)、自作SP台の上にKriptonのボードを置き、Taocのインシュレーターを挟んだ見た目が小型ロボットのようで、これも私的には気に入っている。音も前述したようなPC側入力の改善策(?)による変化を毎回きちんと表現してくれるので、当分は(死ぬまで)このシステムで行きたい。どうせ高音はますます聞こえなくなるし、耳鳴りはするわで、実はもうスピーカーの音質を云々するほどの肉体的条件が整っていないし…。(続く)