【祝!】第13回 (2021年度) 伊丹十三賞・受賞 (7/28)
都知事から祝辞も |
あらゆる文化活動に興味を持ちつづけ、新しい才能にも敏感であった伊丹十三が、「これはネ、たいしたもんだと唸りましたね」と呟きながら膝を叩いたであろう人と作品に「伊丹十三賞」は出会いたいと願っています》
最近、自分があまりテレビを見なくなったせいだと思うが、清水ミチコは、森山良子との例の「ポン、ポン」というカツラのCMくらいしかテレビでは見かけない。しかし、特にモノマネファンでもない私だが、なぜか時々、禁断症状のように無性に清水ミチコの芸を見たくなることがある(濃い芸なので、たまに見る程度がちょうどよい)。今となっては、まさに夢のような伝説のバラエティ&コント番組『夢で逢えたら』(フジテレビ)で、売り出し中のダウンタウン、ウンナン、野沢直子という強力なギャグ芸人を相手に、30年前のバブルに浮かれる若い女性の一断面を活写(?)した、人格&顔面破壊キャラ「伊集院みどり」を創作。その強烈なコスプレを演じきって、女優としての才能の片鱗も示し、単なるモノマネ女芸人を超えた存在になって以来、私は清水ミチコの大ファンなのだ。当時「渋谷ジァンジァン」のライヴまで見に行ったくらいだ。
伊集院みどり嬢 こんな感じでした |
ショーグン様の某国アナも (タモリとの共演熱望) |
清水ミチコは巷間「女タモリ」と呼ばれているそうで、本人もタモリからの影響を広言しているが、確かにこの二人には共通点が多い。師匠もいないし弟子も取らない、というピン芸人としてのストイックな矜持が感じられるし、普通の芸人と違って媚びない自然体のキャラも、どんな相手でもフラットに受け入れる包容力と姿勢もそうだ。芸のインパクト、独創性という点で、ビッグになる前のタモリのデビュー芸「4ヶ国語麻雀」に匹敵するのが、清水ミチコの「伊集院みどり」になるのだろう。モノマネも声帯、形態、顔面模写に加え、創作キャラ造形(いかにも本人が喋りそうな言葉や歌などを、デフォルメしてパロディとして表現する)を面白おかしく加えるところが芸としてのオリジナリティの源で、単なるモノマネ芸人と違うところだ。タモリの、今や古典とも言える寺山修司や「一関ベイシー」のマスターがそうだが、清水ミチコも高校時代の「桃井かおり」から既に、マネではなく「本人に同化する、なり切る」というコンセプトで取り組んで(?)いたそうだ。それにしても、女ピン芸人がほとんどいなかった30年前の「渋谷ジァンジァン」時代から、ほとんどその種の演目(基本的にはテレビ放映できないような ”密室芸” )だけで構成して、今や「武道館」で単独ライヴ公演を毎年開催する清水ミチコの天才ぶり、躍進ぶりは本当にすごいと思う。
本当はこんな感じの人らしい 後ろのCD,LPの量がすごい |
したがってジャズ・ミュージシャンは、まず耳がよくなければならないし、他人の音を聞き分ける能力が重要だ。ガチガチに決められた音楽ではなく、即興でやる以上、ある程度の適当さ、いい加減さ、ユルさも必要で、その芸能的「自由さ」と、その対極にある即興演奏を極めるという芸術的「厳しさ」、すなわち緊張 (tension)と弛緩 (relaxation) が常に同居しているところがジャズの魅力だが、タモリ、清水ミチコの芸には常にその両方が感じられる。また音であれ言語であれ、どんな場でも「即興で反応できる」という能力、デタラメ外国語などを「それらしく聞かせる」ための自在なリズム、イントネーション技術もジャズゆずりだ。加えて清水ミチコが、音を即座に正確にとらえる「絶対音感」を持っていることが、そこに生かされているのはもちろんで、そうでなければ、あの矢野顕子と一緒にピアノを弾いて歌は唄えないだろう(タモさんについては知らないが、当然すぐれた音感の持ち主のはずだろう)。ユーミンから美輪明宏まで、「様々な声を生み出す」 驚くべき発声法も、声楽のプロ並みの技術はもちろんだが、その基になる音を精密に聞き分ける(分析する)能力がまずあるから可能なのだ。
笑いのプロなのだが基本的に「真面目にふざける」素人的なところ、笑いが乾いていてカラッとしているところ、社会人としてきちんとしているが、家庭の匂いをまったく感じさせないところ、など他にも共通点は多い。だがやはり、いちばん大きな共通点は、タモリの名言「やる気のある者は去れ!」という、常に肩の力を抜いて力まない態度であり、そこから生み出す笑いの中に感じさせる「イヤミのない知性」だと思う(すぐれたジャズにも、知性とユーモアが共存しているものだ)。これは他の芸人の中にはあまり見られない種類の「笑いと知」のバランスなのである。たぶん二人の唯一の違いは、タモリの笑いには、ある種のユニヴァーサル性があって毒気がないが、清水ミチコの芸は一種の冷やかし芸というべきもので、乾いているが、ギリギリの線を超えないレベルで、その底に「女性特有の毒(意地悪)」があって、それが独特の笑いのスパイスとして効いているところだろう(ただしモノマネの対象はほとんど、自分が好きな人や、ある分野で既に権威を確立した、たとえからかっても問題ないような人たちを選んでいる)。
YouTube 『シミチコチャンネル』 |
モノマネ動画は、今や古典となったユーミ "ソ” に始まり、以前は歌手が多かったが、最近は「however=しかしながら」の小池百合子「で・ござ・い・ます」のヒット(?)以来、また自民党が豊富なネタを提供している昨今の政治状況を敏感に察知し、笑える政治家ネタが増えてきて、最近では安倍晋三以下、河野太郎や、麻生副総理、さらに高市早苗などの顔面模写入り新ネタも披露している(麻生氏の「な!」には笑った)。どれも相変わらずシャープなイジリと突っ込みぶりがすごい。『シミチコチャンネル』では、他にも清水ミチコがモンゴルへ行って、動物を癒すという本場の歌唱法「ホーミー」を習得して、それを現地の駱駝や羊に試すが逃げられるなど(動物園のアルパカとかカピバラは成功)、清水ミチコの過去の名人芸、名作も、これでもかというくらい楽しめるので、お好きな人はぜひ一度(たまに)視聴することをおすすめしたい。
清水ミチコ氏は、これからみんなが歳をとって、段々モノマネする対象がいなくなる…という懸念を表明しているが、個人的な願望として清水さんに何とかお願いできないかと思うのは、(過去にやっているのかもしれませんが)「黒柳徹子、平野レミ、清水ミチコ」という強力女性トリオで、延々と(たぶん止まらないので)トークバトルを繰り広げるという企画です(当然ながら話の内容は何でもいい)。もちろん仕切り役は清水ミチコで、そこに、桃井かおり、大竹しのぶ、室井佑月、デビ夫人、瀬戸内寂聴、美輪明宏、小池百合子等(某国の女性アナ、「みどり」も可)が次々に参入し、場がぐちゃぐちゃになったところに、イグアナならぬヤモリになったタモリ(本物)まで乱入してきて、カンボジアでの黒柳さんの蛮行を「ヤモリ語」で非難して口論になり、そのまま抱腹絶倒のめちゃめちゃトークとモノマネ合戦になって、最後はめでたく4人による、文字通りの「ほぼ4ヶ国語(全員が勝手に喋る)」麻雀大会に流れ込む……という非常に分かりやすい企画です。若者はともかく、少なくとも中高年層には受けること間違いなしの、これぞ天才芸の集大成というべき企画案だと思いますが、早くしないと、みなさん誰もいなくなる可能性があるので、元気でおられる(生きている)うちに、できればぜひとも実現していただけないかとお願いする次第です。