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2021/03/30

Macオーディオを再構築する(4)

もうすぐ6年になるハードディスク(HDD)2代目LaCie (3TB) の作動音が、最近さすがにシャーシャーとうるさくなってきたこともあって、壊れる前にストレージの新規導入を検討した。近年TV録画などHDD の映像系需要が激増したおかげで、当然ながら生産・供給量も増え、TBクラスの大容量HDDが昔からは想像もできないほど安価になった。データ量あたりの単価からすると、感覚的には1/5から1/10くらいになったほどで、今は代わりにSSDが昔のHDD価格帯に相当するのだろう。そのSSDも最近になってやっと低価格化してきたので、この際だからと、LaCieに代わる新HDDと、ついでにSSDをバックアップと音質比較を兼ねて導入することにした。

Glyph Atom SSD1TB

HDDは音質の観点から、LaCie用に使っていたエーワイ電子製アナログ電源(12V/3A) を継続使用する前提なので、バスパワーでも電源内蔵タイプでもなく、交換可能なACアダプター付きを対象にした。長時間連続再生しながら音を集中して聴く、というオーディオ用HDD使用法だと、耐久性と静音性がもっとも重要だ。調べたら、今のHDD単体の世界市場は、ほとんどWestern Digital (WD) とSeagateの2社の寡占状態らしいので、もう性能的にはどのブランドでも大差ないだろう。そこで最終製品としての信頼性を優先して、現在使用しているI/O製HDDと同じWD/Redを搭載し、かつ日本国内製造のLogitec社のHDD(2TB)を選択した。外付けSSDは、まだ割高だがプロ・オーディオ分野で信頼性の高い米国GlyphのAtom SSD (1TB) という小さなmobile SSDにした。当面I/OとLogitecのHDD2台を常用/比較しながら、GlyphはバックアップとHDD/SSD音質比較用、あるいはいずれ気が向けばハイレゾ専用として使用という計画だ。

この際なので(またも)、MacOSも古いSierraから、まだiTunesが残っている最後のOSX10.14 Mojaveにアップグレードした(これはスムースに移行)。初期から使ってきた再生ソフトAudirvanaは、Win対応にもなったロゴの違う ”新Audirvana" も導入済みだが、以前から使い慣れたUIのMac専用 "Audirvana Plus" をまだ使い続けている(Plusも新Audirvanaも性能面は同等で、名前を統一しただけだ、と同社FAQには書いてある)。AudirvanaにiTunesの楽曲データごと完全移管する案も考えたが、やっとiTunesのデータを整理したばかりなので、iTunesと連動するintegrated modeで使い続けている。いずれその気になってハイレゾを始めたら、ハイレゾファイルのみ、Audirvanaのライブラリーとして別管理することも計画している。

Pioneer BDR-X12JBK
あれやこれやと考えているうちに(こういう時間が実はいちばん楽しい)、ふと浮かんだ疑問が、PCオーディオを始めた初期(2008年以降)のリッピング・データと、最新ドライブ装置とソフトで読み込んだデータを比較した場合、再生音に差があるものか、ということだった(どうでもいい人には、どうでもいいような比較である)。初期のころは、「80年代から買い集めたCD」を「MacBook内蔵ドライブ」で「iTunesで直接AIFFでリッピング(エラー訂正あり)」し、外部HDDに格納、それを「iTunesで再生」していたわけだが、よく考えたら現在保有しているデータのたぶん半分以上は、この時代の音源なのだ。当時はとにかく便利だし、並みのCDプレイヤーよりはよほど音が良いということで満足していたが、まずはデジタル音楽黎明期だったCD音源そのものの質、MacBook内蔵ドライブの性能、iTunesのリッピング能力等からみたら、デジタル技術的には格段に進化しているはずだ。その後、確か2013年ころからiTunesではなく、XLD (X Lossless Decoder) というリッピングソフトを使って読み込むようになり、さらに2016年からはI/O データの普通の外付けDVDドライブを使ってきたので、それらの違いにも興味がわく(きりがない……)。そういうわけで、この際だからと(またも)信頼できるリッピング専用機を導入してみようと、さらにオーディオの虫が動いた。いろいろ調べて、Pure Readという精密なリッピング機能を持つPioneerのBlu-rayドライブBDR-X12JBKを購入した。

そんなことで、久々のオーディオ投資で常用外部ストレージが、I/O (3TB)、Logitec (2TB)、Glyph (1TB)と、3台になったわけである。しかし私のMBP (Early2015) は、USB3.0が2箇所しかなく、一つはHDD、もう一つは再生時にはDDC/DAC、リッピング時はDVDドライブにそれぞれつないでいる。最新のThunderbolt3、USB-C端子はなく、その代わり、接続できる機器もほとんどなく、今や無用の長物化しているThundebolt2端子が2箇所遊んでいる(Thunderbolt3とは端子形状が違う)。リッピング装置/ソフトやHDD/SSD間のオーディオ的聴き比べ(遊び)には、間を置かず切り替え試聴ができた方が楽しい。そうなると、少なくともMBPとストレージ2台の同時接続が望ましいが、ノイズ対策のために今はMBPをバッテリー駆動で再生していることもあって、内部分岐し接点の多いUSBハブはできれば使いたくないので(理論的根拠はない)、このThunderbolt2端子の活用策を考えた。

Thunderbolt Single Port 
USB3.0 Dongle
いろいろ調べた結果、Thunderbolt (1&2)/USB3.0変換コネクターというものをたった1種類ネットで見つけた(台湾のLintesという会社の製品で、結構高価だが、他に選択肢がないので。信頼性は分からないが試してみる)。これで、既存USB端子を加えて最低でも2台のHDDないしSSDを同時にUSB結線できるので、聴き比べも楽になる(Thundebolt2端子はもう一つあるが、当面2台でいいだろうということで)。Thundebolt2の速度は、spec上はUSB3.0よりは速いが、最低でもUSB3.0並みになるはずだ。しかしHDD vs SSDもそうだが、データ読み取り、伝送の「速度」とオーディオ的「音質」の関係は、いまいちよく分からない。速ければ速いほど本当に音も良いのだろうか? そうなら、なぜ良いのか、理論的根拠も知りたいが、オーディオは昔からそのあたりが曖昧で、そこがまた面白いところでもある。そのへんは実際に聴いて比べてみたい。

Bus-Power Pro
さらにあれこれと考えているうちに、以前DDC/Hi-Face Proにセットで使っていたオーロラサウンドのUSB電源供給機Bus-Power Proがあったことを思いだした(今はPro2という新バージョンになっている)。Hi-Face自体は旧ドライバーが新MacOSに非対応で使用できなかったので、相棒の存在を忘れていたのだが、これを現在バスパワー/DDCとして使用中のiFi nano iONEにかませたらどうなるかと思って試しに繋いでみたら(USB2.0接続になるが)、MBPのMIDI設定でも問題なくDDCを認識した。出てきた音を聴いてみたが、iFiはかなりノイズ対策をしている機器のはずだが、それでもMacバスパワーに換えてトランス式ACアダプター電源による補助電力を供給してみると、明らかに音の厚みとクリアさが増すので、やはりPCとバスパワー接続したUSB機器のノイズ対策には効果があるようだ。オーディオは、アナログだろうとデジタルだろうと、やはりノイズ制御が肝要なのだとあらためて納得。以前からアナログアンプ類とDACはアイソレーション・トランス経由で給電しているし、上記HDDのLaCieもエルサウンドのアナログ電源経由で使用してきた。ACバックグラウンド・ノイズが減ると、とにかくステレオ音場が静かになって広がり、再生音の滲みが減って音像の実体感が増すことを経験しているので、PCとUSB機器間も同じことなのだろう。Mac/Bus-Power Pro間をデータ専用USBケーブルで結線して電力供給を完全に断てば、さらに効果的と思われる。いずれUSBバスパワーのGlyph SSDでも分離給電を試してみたいと思う。

究極の電源対策は、マイ電柱や200V電源でACノイズをシャットアウトすることだろうが、残念ながら集合住宅ではそうもいかない。あのホンダが開発し、ついに市場投入した商用電源ノイズ対策機器であるオーディオ用バッテリー「LiB-AID E500 for Music」 にも興味が湧くが、電力消費の少ないオーディオ上流部分への適用なら、大きなノイズ削減効果が見込めそうだ。しかしACノイズフリーを目的に、再生時にはバッテリー駆動しているMBPのようなノートPC本体も、HDDやSSD自体も、それ自体がノイズ発生源なので、デジタル機器のノイズ問題はキリがない。ただし、何らかの対策や工夫をすればするほど「音場」が静かになり、透明度が増し、音がくっきりと聞こえてくる(ように感じる)ことも事実だ。
Mac改編接続フロー
というわけで、左記チャートに示すような改編接続フローがとりあえず完成した。 iTunesライブラリーの整理整頓は予想以上に大変で、素人には頭が痛くなるような作業だったが、こちらもどうにかこうにか完了した。ファイル階層の見た目もスッキリし、(!)マーク の出る楽曲や重複データなども可能なかぎりつぶした(まだ時々出るが)。そのiTunesの「修正版ライブラリー/音源データ」を、3つのストレージそれぞれに置くことにした。3種類のストレージは、Glyph SSD(バスパワー)、I/O HDD(電源内蔵)、Logitec HDD(外部アナログ電源)と電源供給のタイプもそれぞれ異なる。これでデータの相互バックアップができ、3つもあれば万が一どれか1台がクラッシュしたときも安心だ。

聴くときにiTunesのoptionコマンドでストレージ/ライブラリーを選択すれば、同じ曲のストレージ別即時聴き比べも可能になる(はずだ)。過去の音源と新たにリッピングした音源の差、新たにリッピングする同一曲のストレージ別の音の差はもちろん、HDD/SSDの違い、Thunderbolt2 / USB3.0経由の音とUSBダイレクトの音の違いなど、聴き比べで遊べる組合わせはたくさんありそうだ……そんなに聴き比べてどうする?(笑)という疑問を持つ向きもあろうが、これぞオーディオの楽しみの本質なのである。(続く)

2021/03/13

Macオーディオを再構築する(3)

2018年夏に、オーディオ専用PCとして10年近く使ったMacBookからMacBook Pro (MBP) に入れ換え、音の入り口周辺のデバイスを再構築してから早くも2年半が過ぎた。出てきた音が気に入ったので、その間オーディオ的には何もせず、ひたすら翻訳しながら好きなジャズを聴いて楽しむ、という平穏な(?)日々を過ごしてきた。しかし、いかに満足していても、決して一箇所に長い間留まっていられず、常にどこかしら手を加えて音の変化を知りたい、とつい考えてしまうのがオーディオ好きの哀しい性(さが)だ。昨年10月末に『スティーヴ・レイシーとの対話』がやっと出版され、一息入れたこともあって、久しくおとなしかった「オーディオの虫」がそぞろ動き始めた。

とはいえ、DAC以降の機器に現状大きな不満はないので(持たないようにしている)、畢竟その対象はMacをベースにした音の入り口部分になる。アンプやスピーカーはアナログでもデジタル時代でも基本は一緒であり、また一般的にどうしても高額になるので、普通はそう頻繁には換えられないが、音の入り口は機器をあれこれ変化させて楽しめる。CDプレーヤー時代は電源周りとか、ケーブル類をいじるか、あるいはCDプレーヤー本体を交換するくらいしか素人にはほとんど遊びようがなく、オーディオ的には実につまらない時代だった(しかも結局やたらと高額化し、金満オーディオへと向かった)。それがPC時代になると、アナログLP時代にレコードプレーヤー周りで、素人でもターンテーブル、アーム、カートリッジ、配線、MCトランス、フォノイコ等の違いや、手を加えて音の変化を楽しめたのと同じ感覚で、しかも比較的安価に、PC周りのデバイスを変化させて楽しめるようになった。そこで昨年末、コロナ禍でずっとインドア生活を強いられていたこともあって、まず大元の音源管理から手を付けようと、前から乱雑ぶりが気になっていた「iTunesライブラリー」をこの際大掃除して、整理してみようかと思い立ったのが運のつき(?)だった。

2001年にAppleから発表されたiTunesは、音楽ファンにとってはソニーのカセットウォークマン以来の革命的な音楽ガジェットだった。CDリッピングによる音源データと再生ソフトウェアは音楽メディアの概念を変え、軽く小さなiPodという再生機器との組み合わせで、どこへでも手軽に音楽を持ち歩けるという素晴らしいデジタル・アイテムだった。さらにiTunesの優れた点は、ディスク・メディアから解放された音楽再生だけではなく、Macと組み合わせて手持ちの音源情報を整理、管理、応用するデータベースにもなり、自分専用コンピであるプレイリスト作成や、好きな曲を聴きたいときに自由に選んですぐに聴けるという、音楽ファンが夢に見ていた機能のほとんどを現実のものにしてくれたところだ。しかしその後、マルチメディア化の流れでヴィジュアル情報も対象にする、ネットにもつながる、Windowsも対象にする、などあれもこれもと欲張って複雑化、肥大化の一途をたどった結果、初期Ver.10時代までの「シンプルで、美しく、聡明」というMac的な世界観からは徐々に離れてゆき、Ver.12以降はUIも分かりにくく使いにくいソフトになって今に至っている。そのiTunesが2019年末のMacOSX最後のCatalina以降はついにその名称もなくなって、「Music」だけにしぼった機能に単純化された。Win 版は名前も継続するそうなので、元祖のMacから消えるということのようだ。まあ「音楽」だけだった初代への先祖返りとも言えるが、最近7年ほどは、iTunesは基本的にMac用音楽データベースとしての機能しか使っていなかった私には関係がない、と言えば関係ない変更でもある。

しかし音楽データだけとはいえ、PCオーディオを始めた'00年代半ば以来、私はiTunesに膨大なCD音源を貯めこんできた。おまけにiTunes自身のバージョンアップ、MacOSXのアップグレード、使用Mac機種の交代、外部HDDの入れ替え、iPodやiPhoneへのデータ転送……などを10年以上にわたって繰り返してきた結果、Macの「iTunesライブラリー」の整理、統合、音楽データの移動やコピーもそのつど繰り返してきたので、MBPのFinderで調べてみると、iTunes内ファイルの階層が入れ子状態のようにぐちゃぐちゃになっていた。せっかく手作業で貼り付けた一部のアルバムアートワークなども、あちこち消えたりしている。再生時も、時々びっくりマーク(!)が出て、音楽データが何度も所在不明になったりしたが、素人なりに、そのつど手作業でデータ検索や移動もしてきたので、今も普段聴く分には問題はない。それにiTunesのデータべースとしての構造や出来は基本的に気に入っているので、今更他のソフトに切り替える気もない。しかし、このファイル階層のぐちゃぐちゃぶりは、見た目も含めてどうも気分が悪いので、年末でもあるし、大掃除もかねて久々に何とか整理してみようかと思い立ったのだ。

iTunes 正常なファイル階層
Apple Communityより
正確に調べたことはないが、iTunesの音楽データはたぶん80%以上がジャズで、非圧縮AIFFのファイルをすべて外付けHDDに格納してきた。気づくと、アルバム数(CD枚数)で約1,400、曲数で約14,000、データ量で約700GB近くになっていた。非圧縮なので仮に約50MB/曲、10曲/アルバムとすればほぼ単純計算通りになる数字だ。今は家で聴くだけで持ち歩くわけではないので、圧縮によるデータ量軽減と経済性よりも、オーディオ的に「44.1kHz/16bitの音源再生を極める」という音質優先が基本思想だ。テレビ録画用需要が急増したせいかHDDが非常に安価になってきたので、今や音質を犠牲にして圧縮する必要性も薄まり、通信も5Gとかになれば、ネット配信上もデータ量の問題は相対的にますます小さくなってゆくだろう。

しかし、ネットワークでつながろうと、データを圧縮しようと、デジタル音声の変化は人間にはほとんど感知できないレベルだとか、ハイレゾにすれば何もかも解決するとか……誰が何を言おうと、そうした巷のデジタル言説(?)は信用していない。なぜかというと、大昔(1980年代)CDプレーヤーが登場した当時、デジタル音楽の世界の素晴らしさを伝える大宣伝と大合唱に騙されて、それまで集めたLPレコードをほとんど処分したあげく、喜び勇んで中級クラスのCDプレーヤーを初めて買ったものの、LPの密度の高い音に比べるべくもない、その驚くべき「スッカスカの音」に愕然とし、心底失望した原体験があるからだ。当時そういうオーディオファンは日本中にいただろうし、あの時の「デジタルショック」は未だに忘れられないトラウマなのだ。そもそも物理的に高速回転するディスクから「データ」を読み取りながら、「リアルタイム」でそれを正確に「音として再生」するデジタル技術は、予想したほど簡単なものではなかったのだ。CDプレーヤーにつきまとった実体感のない音の原因もそこにあるのか、と素人ながらずっと思っていた。

後になってからCDの20kHzという高域上限スペックや、ディスクの回転機構とデータ読み取り技術に問題があったとか言って、あれこれ工夫を重ねたデジタル音楽が「まともな音」をやっと聞かせるようになるのに、それから十年以上はかかったし、普及品CDプレーヤーはそれでも完成されたとは言えないだろう。SACDになって、何百万円もするハイエンドといわれる機器で初めてアナログ並みの音が可能になっただけだ(ただし、あくまでこれはオーディオ好きの意見であり、90%以上の「普通の」聴き手にとっては、今では通常盤CDとCDプレーヤー再生で何の問題もなく聞けるレベルの音だろう、という意味である。音楽ビジネス上はそれでOKだからだ)。だから私は’00年代になってから、iTunesという画期的なソフトの出現で、もっと静的にCDデータをファイルとして読み取れ、しかも素人でも自分の工夫次第で再生音の変化を楽しめる余地のあるPCオーディオに移行したのだ。ただし再生音の品質面では、やはりAmaraやAudirvanaのような優秀な再生専用ソフトウェアが開発されて初めて、PCオーディオのサウンドも満足できるレベルに達したと言えるだろう。しかも、これらソフトの価格は、オーディオ機器類に比べたら決して高いものではない。

vs.44.1kHz/16bit ?
米国では、今やアナログレコードの売り上げがとっくにCDを追い越しているが(もちろんCDからストリーミングへ、という急速な市場変化が背景にある)、日本もついにソニーが「LPレコードの生産」を再開したり、「カセットテープ」が人気になるなど、アナログオーディオへの根強い人気が衰えないのも、単なる流行や回顧趣味だけではなく、アナログの真の高音質を知る音楽ファンが体験してきた、こうした歴史的な背景があるからだと思う。新技術だ何だのと言ったところで、「サンプル音」ではなく、「基音と倍音が一体となって響く自然な音楽」を聴いてきた人間が持つ聴感を甘く見てはいけないということだろう(もちろん人によるが)。同様に、古い音源をデジタル・リマスターしたり、MQAのように別のデジタル技術で加工して「ハイレゾ」と称している音は、(すべてではないだろうが)きれいだが、どこか音の骨格 (body) が曖昧になり、どうしても人工的な匂いがするので、私のように「20世紀にアナログ録音」されたジャズ音源を中心にした聴き方では、特に恩恵は感じない(DSDなどによる新録音はもちろん別だ)。いずれにしろ、CDの歴史が示しているように、何事も利便性を優先すると、かならず代わりに何か大事なものを失うということなのだろう。とはいえ、一度便利さを体験すると、もう過去には戻れないのも悲しい人間の性だ(最近も、余計な仕事をさせないというポリシーで、ずっと再生時には切っていたMacのWi-Fiを、iPhoneを使ってiTunes Remoteでリモコン操作する便利さに勝てず、ずっとつなぎっぱなしになった)。

しかしアナログオーディオの世界では、努力と工夫次第で、今でも過去の音源の高忠実、高音質再生を個人が楽しめるのである。20世紀の終わり頃からCD音源として大量に作られ、消費者に販売された「44.1kHz/16bit」による音楽データ資産も、個人が今でもそれらをもっと楽しめる技術やノウハウを提供する責任が音楽産業にはあるのではなかろうか、という気がする。供給側の論理(=商売)だけによる、高額なSACDやハイレゾ化商品だけが方法ではないと思う。過去の標準的CD音源データから、個人レベルで素晴らしい音楽を再生しているPCオーディオの達人も世の中には実際いるようだし、私のようにPCの持つ圧倒的利便性という恩恵を享受しつつ、なおかつ、高音質の世界と両立させてみたいと思っている人も多いだろう。とはいえ私は、今さらオーディオ機器に大金をつぎ込む気はない(過去に散々つぎ込んできたので)。あくまで遊びとして、手持ちのジャズCD音源を、PCを通してできるだけリアルに再生するために、リーズナブルなコストと手間で、満足のゆく効果を発揮してくれる機器や再生方法を探し、それらを使いこなして自分の好みの音を出すのが今のオーディオの楽しみ方だ。(続く)