The Thelonious Monk Orchestra at Town Hall 1959 Riverside |
モンクはソロが良いと昔から言われてきたのは、まず曲が難しいこともあるが、モンクの意図と彼がイメージしているサウンドを理解し、実際に演奏でそれを表現できる奏者が限られていたからだ。そのスモール・コンボではなかなか完全には表現し難い、複雑なリズムとハーモニー、内声部の動きを持つモンク作品のサウンドを、 ”ラージ・アンサンブル” によって表現するのは、アレンジャーにとってさらにハードルが高いはずだが、確かに非常に興味深いチャレンジではあるだろう。モンク本人でさえそう感じていたからこそ、何度も挑戦したわけだが、モンクが直接関与した編曲に基づく演奏すら当初酷評されたように、成功させるのは簡単ではない。そもそもモンクの音楽自体が当たり前の語法に則っていないし(それが魅力なわけでもあり)、小編成コンボでもサウンド的に満足していたわけではない曲を大編成バンドで拡張して表現するのは、前にもどこかで書いたが、大キャンバスにほぼ即興で抽象画を描くようなものなので、成功させるには並大抵ではない編曲能力とセンス、演奏能力が要求されるからだ。しかし難しいが、仮に成功したら、他の音楽や演奏では決して味わえない素晴らしく魅力的なジャズになる可能性もある。
以下に挙げるのは、これまでに私が探して聴いた「ラージ・アンサンブルによる全曲モンク作品」というレコードだが、もちろんド素人の私に演奏の優劣を判断する能力はないので、あくまで参考として個人的な印象を書いただけである。演奏の評価はプロの音楽家や、聴き手それぞれの視点や嗜好で判断すべきことだが、いずれにしろこの聴き比べは、モンク好きなら楽しめる作業であることは確かだ(ただ、モンク好きでビッグバンドも好き、あるいはビッグバンド好きでモンクも好き、という人がいるのかどうかはよく分からないが…)。それに、レコード(CDでもデータでも)の場合、大型スピーカーで大音量で鳴らせれば別だが、中型以下のスピーカーで聴くビッグバンドは正直言って魅力が半減する。どうしても、迫力に欠け、低域に比べて高音部がやかましく聞こえるからだ。ライヴで聴く優秀な大編成バンドのジャズ・サウンドは、一度聴くと病みつきになるくらい素晴らしいのだが……。
The Bill Holman Band Brilliant Corners The Music of Thelonious Monk 1997 JVC |
* 収録曲は以下の10曲。
Straight, No Chaser /Bemsha Swing /Thelonious /'Round Midnight /Bye-Ya /Misterioso /Friday the 13th /Rhythm-A-Ning /Ruby, My Dear /Brilliant Corners
Standard Time Vol.4 Marsalis Plays Monk 1999 Sony |
* 収録曲は以下の14曲。
Thelonious /Evidence /We See /Monk's Mood /Worry Later/Four in One /Reflections /In Walked Monk (Marsalis) /Hackensack /Let's Cool One /Brilliant Corners /Brake's Sake /Ugly Beauty /Green Chimneys
考えてみると、上記3枚のCDはいずれも1990年代の演奏と録音であり、アレンジャーも参加プレイヤーたちも、モンクと同時代を生きていたメンバーがほとんどだ。だから1950/60年代のモンクの天才と斬新さを記憶し、みんなが身体でそれを覚えているがゆえに、基本的にモンクのイメージをなぞるような正統的リスペクトになるのかもしれない。そう思って聴けば、これらはいずれも良くできた楽しめるレコードだろう。
The Monk; Live at Bimhuis 狭間美帆 2018 Universal |
* 収録曲は以下の7曲。
Thelonious /Ruby My Dear /Friday The 13th /Hackensack /Round Midnight /Epistrophy /Crepuscule With Nellie