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小夏 |
念願の高知に初めて行った。旬のカツオを楽しみにしていたが、カツオのタタキ、ウツボのタタキ、グレのタタキ、カツオの塩タタキ…と、これでもかとタタかれ三昧だった。高知ではカツオの刺身が高知名物のショウガではなく、ワサビ付きで出るのも意外だった(ショウガは東京だけなのか)。ホタテの子供のような長太郎貝が美味だったが、地元でチャンバラ貝と呼ぶ貝は独特の味がした。どろめと呼ぶ生シラスも味わったが、のれそれ(あなご系の幼魚?)は見た目が今一つ食欲がわかないので、やめておいた。龍馬の好物だったというシャモ鍋は残念ながら機会がなかった。野菜、特にトマトは確かにうまい。芋けんぴもうまい。文旦や小夏はもちろん最高にうまい。自然に恵まれ魚も野菜も果物も新鮮なので、とにかく何を食べてもうまいが、上品さより野性味のあるうまさなのだ(ただし「小夏」は見た目も本当に清楚で、しかも味も爽やかで上品で、まさに柑橘類のプリンセスやーっ!…と彦摩呂風)。
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五台山からの眺望 |
高知に実家のある妻の友人が、次から次へとあちこち車で案内して(引きずり回して)くれるので、どこへ行ったのかよく覚えていないほどだ。覚えているのは……到着後立ち寄った韓国料理店の庭で、目の前をイタチと思われる小動物が歩いて行った。さすが高知だ(生まれて初めて見た)。「はりまや橋」は日本3大…の噂通りだった。最初の日は大雨だったが高知城に行き天守閣まで登り、隣に新しくできた山内家所蔵品や龍馬の手紙などを展示した歴史博物館を見学し、ついでに兜や羽織のコスプレを楽しんだ。翌日からはおおむね晴れたので、桂浜や五台山からの景観を楽しんだ。上から見た高知市は山と川と海に囲まれたきれいな町だ。さらに西に向かって「いの町紙の博物館」で和紙の歴史や製法を勉強し、桜の美しい仁淀川沿いを走り、日高村で名物のトマトを使ったオムライスを食べ、佐川町へ行って「司牡丹」の酒蔵周辺を見て酒を何本か買った後、山また山を越えて南下し、須崎の先の中土佐町の海岸沿いまで行って、老夫婦がやっている地元のしゃれた喫茶店でコーヒーを飲んで、わらび餅を食べ、その後お茶まで出てきたのでびっくりした(高知ではコーヒー後のお茶は喫茶店どこでも普通らしい)。
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「おっこう屋」店先 |
翌日今度は東に向かい、海岸沿いに走って安芸市まで行った。室戸岬まではさらに車で何時間もかかるという。高知市から足摺岬などとんでもなく遠いらしい。帰りに「絵金蔵」屏風絵で有名な(知らなかったが)、香南市赤岡町にある「おっこう(奥光)屋」というおもしろい骨董店に寄った。エルザという名前の謎(?)の女店主と友人でやっている不思議な骨董店だ。様々な陶器やガラス製品、その他諸々が所狭しと並べられている。なかなかの美人猫のいる裏庭でまったりし、コーヒーとパン、加えてタケノコの若竹煮をごちそうになった。どれもうまかった。妻が九谷の小皿を何枚か買った。
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安芸近くの海 |
高知県の海と海岸線はとにかく広く長い。しかしどこに行っても山が海岸のすぐ近くまで迫っているので、残されたわずかな平地にしがみつくように町があり、そこに人が住んでいる。したがって南海トラフ地震を想定した津波対策の看板や避難所があちこちにある。この広さのせいかどうか知らないが、高知人はみな声がデカい。どこの飲み屋でも、ほとんどケンカしているのかと思うほど、若者も年寄りも、男も女も、そこらじゅうで大声で話している。したがってこちらも大声を出さないとよく聞こえない。高知で「静かに」飲むのは至難の業だ。小声でぼそぼそ喋る高知人は、ギャグの苦手な大阪人くらい高知では生きにくかろう。要はみな酒と、話すことが何より好きなのだ。喫茶店がやたらと多いのもそれが理由らしい。しかし、客人に対する「もてなし」の文化があるのだと思うが、受付や、飲食店やどこでも従業員の応対がとても優しい。高知人はたぶん(大部分は)温かくていい人たちだと感じた。
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龍馬顔カプチーノ |
後ろに迫る山と、前に広がる大海原に挟まれていると、外の世界への期待と想像は膨らみ、やはりいつか外へ出て行って一旗上げたいという気になるのだろう。だから高知の英雄はみな天下国家を語り、動かす人間だ。坂本龍馬、後藤象二郎、岩崎彌太郎、ジョン万次郎…等々。そのかわり出て行きっぱなしで、偉くなって地元に利益を還元しよう、とかいう小さいことには興味がない。思想と行動のスケールが違うのだ。また、どこへ行ってもそこらじゅうに銅像(それも立像)が立っているのも不思議だった。やはり英雄を崇める文化があるのだろうか。その代わり普通の高知の男は、酒好き、博打好き、お喋り好きで、いきなり見知らぬ人間に話しかけたりするし、朝から飲み屋で飲んでいるおっさんも多いらしい(妻の友人の話)。高知女も酒とお喋りは好きだが、働き者だという(確かにそのようだ)。
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桂浜・龍馬像横顔 |
高知一の英雄と言えばやはり坂本龍馬だろう。龍馬が暗殺された京都近江屋跡地とか、東山にある龍馬と中岡慎太郎の墓は以前訪れたことがあるが、桂浜の坂本龍馬像ともついに対面した。像は思ったより大きく、眼前の雄大な太平洋を望んで立っている。今年は龍馬没後150年ということで銅像の隣に櫓が組まれ、龍馬の顔のあたりの位置まで登れるので、せっかくなのでもちろん上ってみた(有料100円)。ただし建築現場の足場のようで足元がグラグラしていて、しかも下が見えるので、高所恐怖症の身には怖い。だがすぐ近くで見る龍馬の横顔はなかなかよかった。(しかし、今回カメラの設定を間違って、撮った写真がみなピンボケ気味だったのが残念。)
そういうわけでイタチと坂本龍馬に出会った旅だった。今回は高知市内にある老舗のジャズ喫茶「ALTEC」にぜひ行ってみたかったが、昨年10月に閉店してしまったという。また一つジャズ喫茶の灯が消えた。代わってネットで探した「木馬」や「クレオール」というジャズ喫茶に顔を出したかったのだが、あちこち行って時間がなくて結局行けずじまいだった。高知を再訪する機会があれば行ってみたい。