Bill Evans The Tokyo Concert 1973 Fantasy 初来日時の録音 |
夏の野外ライヴ・コンサートは、PA音が拡散して集中できないのと、遠くてミュージシャンがよく見えないこと、何より暑いのが苦手で行かなかった。バブル当時盛り上がった「マウント・フジ・ジャズ・フェスティバル」は毎年夜のTV番組で見ていた。TVで見ると音がよく聞こえるし、奏者の顔やちょっとした表情などもよくわかる。ジョシュア・レッドマンが初登場したときの演奏は心底すごいと思った。隣にいた日野皓正が、驚いたような表情でじっと彼を見つめていた画面をよく覚えている。ブルーノートのアルフレッド・ライオンがステージに登場して、満員の聴衆に拍手で迎えられたときの感激した表情も印象に残っている。東京に住んでいちばん良かったと思うのは、新宿や六本木などにジャズクラブが数多くあり、外人、日本人を問わず、一流ミュージシャンの演奏が間近で楽しめることだった。だがミュージシャンの「格」とは関係なしに、どんなプレイヤーであれ、そこではよく聞こえるPAなしの生音だけでなく、各奏者の表情も、体の動きも、反応も、息遣いもよくわかって、やっぱりジャズを「聴く」のにいちばんいいのは、大会場でやるコンサートよりは小さなクラブ・ライヴだと毎回思っていた。
一昨年の末、その大会場(新宿文化センター)で2日間にわたり「新宿ピットイン」の50周年記念コンサートがあり、私は初日に出かけた。相倉久人氏が同年夏に亡くなったため、菊地成孔氏が代役としてMCを務めるということだった。当日はドリーム・セッションということで混成グループによるフュージョン系から、メインストリーム系、さらに大友良英、近藤等則、鈴木勲や山下洋輔リユニオン・グループのフリー・ジャズまで、延々6時間以上に及ぶ多彩なプログラムを堪能した(が疲れた)。しかし現場で覚えているのは会場を埋めた大半の中高年の客とその熱気、ステージ上の特に年配(?)ミュージシャンたちの、ぶっ飛んだ衣装とかこちらを圧倒するようなエネルギーだ。相対的に若い菊地氏のグループがいちばんクールに普通の(?)ジャズをやっていたので、佐藤允彦のピアノソロと共に音もよく記憶しているが、他の年寄りたち(中でも鈴木勲は当時82歳だ)は見た目と全体のインパクトが強烈で、余りの迫力に音楽そのものをよく覚えていない。
先日TV録画を整理していたら、東京MXが放映したそのコンサート録画が出てきたので改めて見てみた。2日間にわたる12時間のコンサートを約2時間に編集しているので、各演奏もダイジェストに近いが、2日目は渡辺貞夫や日野皓正などが出演し、オーソドックスなジャズが中心だったようだ。じっくり見直すと、確かに音はよく聞こえるが、一方初日のあのすごい熱気はさすがに伝わって来ない。まあ、これはお祭りということなので、レギュラー・メンバーではないグループが多く、現場でひたすら見て聞いて盛り上がればいいのだろう。というか、フリー系のジャズは聞くと面白いとは思うが、演奏を聴いてその「音」を記憶している人はいるのだろうか? 「聴く」というより、「体験する」もので、全身で受け止めた音の塊のエネルギーの記憶というのが正しい表現のような気がする。しかしジャズの聴衆というのは、コンサートでもクラブでも、掛け声はあってもロックやポップスのように観客総立ちで一緒に踊るようなことは普通はない。基本ジャズのスウィングは横揺れで、縦ノリではないからだという理由もあるが、歳のせいもあるだろう。それ以上に、ジャズはやはり一人で聴く音楽であり、大勢でわいわいと聞くものではないからだろう。行儀よく「見るともなしに聴く」、というのが正しい大人のジャズの聴き方か。