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Bill Evans Waltz for Debby 1961 Riverside |
・・・と言うと身も蓋もないように聞こえるが、勤めていた合弁企業の親会社がアメリカ北部の田舎町にある企業だったので、これは私の非常に狭い体験から出てきた結論である。1980年代までは、親会社には黒人や南米系の従業員やマネジャーもいたのだが、90年代以降になってからは、数百人はいた本社事務所はほぼ米国系、ヨーロッパ系(駐在)の白人ばかりになった。その間付き合ったアメリカ人でジャズを聴いていた人は知る限り1人だけで、あとはヨーロッパ系の人間が2人だけいた。一般にヨーロッパ系の人間の方が、ジャズ好きが多いように思う。そのうちの1人(ベルギー人)の家に行って、彼のステレオでジャズのCDを一緒に聴いたりした。田舎町で隣家を気にする必要がまったくないので、イギリス製ステレオ装置のボリュームをいくら上げても構わないというのが実に爽快だったことを覚えている。それと、ビル・エヴァンスのライヴ盤「Waltz for Debby」も聴いたのだが、自分の家で聴くのとまったく違う音楽に聞こえるという不思議な体験をした。「ヴィレッジ・ヴァンガード」で、グラス同士がカチカチとぶつかり合うあの音も妙にリアルだった。たぶん再生装置だけでなく、周囲の静寂(SN比)と、家の広いスペースがそう感じさせたのだろう。
彼らは何を聴いているのか、というと大抵はポピュラー音楽か、カントリー音楽だった。若い人たちは当然ロックを聴いていたのだろう。田舎町ということもあって、ジャズクラブなど無論ないし、ジャズのコンサートなどもほとんどなかったようだ(知る限り)。小さなライヴ・ハウスのようなものもあったが、そこでは主にカントリーが演奏されていたようだ。その町にカラオケが登場したのもずいぶん後になってからで、日本で一緒に出掛けた経験からすると、音感も含めて大抵の人の歌は下手くそだった。日本人の足元にも及ばない。だがこれをもって、アメリカ人は歌が下手だ・・・とは一概に言えないだろう。子供の頃からしょっちゅう歌っている日本人と違って、そういう場と訓練がないのだから仕方がない。ひょっとして生バンドが伴奏したら、アメリカ人の方が乗りもよく、上手いということだってあるだろう(ないか?)。日本のジャズファンが千人に1人だとすると、アメリカ(あくまでこの地方)では、5千人から1万人に1人くらいの感覚だろうか(まったく根拠はないが)。ニューヨークやシカゴのような都会に行けば、人種構成も多彩になるし音楽環境もあるので、もっと数は多いのだろうが、それでも人口比はあまり変わらないのかもしれない。若い人がジャズを聴かないのは日本と同じだろう。毎日、世界で起きていることが瞬時にわかるような、世の中全体が蛍光灯で隅々まで明るく照らし出されたような時代にあっては(これはアメリカナイズと同義だ)、「陰翳」(もはや死語か)というものを感じ取る感性がまず退化するだろうし、クラシックであれジャズであれ、それを魅力の一つにしてきた音楽への関心も薄れるのは当然か。
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Lennie Tristano Tristano 1955 Atlantic |
アメリカにおけるモダン・ジャズの物語を読んだり、見たりしても、主役の黒人ミュージシャンたちを除くと、登場するのはほぼユダヤ系かイタリア系の白人だけだ。レニー・トリスターノのような天才やジョージ・ウォーリントンのようなイタリア系の有名ピアニストも何人かいるが、イタリア系はたとえばジャズクラブ「ファイブ・スポット」のオーナーだったテルミニ兄弟とか、やはりビジネス業界側が中心のようだ(「ゴッドファーザー」の世界)。一方ユダヤ系の白人はリー・コニッツやスタン・ゲッツのような有名ミュージシャン、ブルーノートのアルフレッド・ライオンのようなプロデューサー、レナード・フェザーのような批評家、その他ショー・ビジネスの関係者など各分野にいる。とりわけ映画も含めて、アメリカの芸術、音楽、ショー・ビジネス全般におけるユダヤ系の人たちの影響力は、我々の想像をはるかに超える範囲に及んでいる。一方のアメリカの中枢、いわゆるWASP系は、そういう世界では影が薄いようだ。ちなみに親会社があった北部の町は、調べた限り、現在その地域の住民の95%は白人であり、そのおよそ半分はドイツ系、イギリス系の祖先を持つ。しかしモンクのパトロンだったニカ男爵夫人が、イギリス生まれのユダヤ系(ロスチャイルド家)の人物であり、マネージャーだったハリー・コロンビーがドイツ系のユダヤ人移民だったことを考えると、こうした統計の意味も単純ではない。今更だが、「日本人は・・・」と言うように、一言で「アメリカ人は・・・」とは言えない複雑な背景がアメリカという国にはある。ジャズはそういう国で生まれ育った音楽なのである。にしても、大統領がトランプとは・・・。